Drop.010『 The EMPEROR:U〈Ⅰ〉』【3】
ノックから挨拶を交わした後、桔流に名を呼ばれると、法雨はノートパソコンから目を離し、首を傾げるようにして応じた。
「ん? ――何かしら?」
桔流はそれに、しばし考えるようにしながら紡ぐ。
「えっと~、――実はさっき、お一人でいらした男性のお客様に、――“法雨さんはお元気にされてますか?”――って、尋かれたんですけど……」
「え?アタシ?」
「はい。――で、よければお呼びしますかって言ったんですけど、それは断られたんで……、――一応、伝えるだけ伝えておこうかなと思って、伝えたわけなんですけど……。――う~ん……」
「?どうしたの?」
先ほどから、要件を伝えながらも何か別の事を考えている様な桔流に、法雨はまたひとつ首を傾げ、問うた。
そんな法雨に、桔流は、いかにも悩んでいますと云わんばかりに鳴いては、続けた。
「う~ん……実はですね……。――その、法雨さんの事を尋いてこられたお客様の顔……、――俺、――どっかで見た事があるような気がしてまして~……」
「“どっかで”?」
法雨が問うと、桔流は考えあぐねながら頷いた。
それに腕を組むと、法雨は言った。
「アタシの事を尋くくらいなんだから、常連さんでしょ? ――なら、見覚えがあっても当然なんじゃないの? ――そんなに悩む事?」
「いや~、違うんですよ~。――実は、“店じゃないとこで”見た覚えがある感じなんですよね~」
「えぇ~? 何よそれ~。 ――もう~……、変に悩んで見せるから、アタシまで気になってきちゃったじゃない。――これじゃ仕事に集中できないじゃないの……。――早く思い出してよ」
「いや~……思い出したいのは俺も一緒なんですけどねぇ~……う~ん……」
法雨は、それからしばらくしても思い出せないらしい桔流に溜め息をつくと、助け舟を出すことにした。
「も~、しょうがないわね~。――いいわ。手伝ってあげる。――まず、そのお客様はどんな方なの?」
「あぁ。えっと……、――オオカミ族の方で~、結構かっこよくて~、体つきもがっしりしてる感じですね~。――で、毛並みは黒ですね。――因みに、その色がすっごく似合う感じの方です」
法雨は、その桔流の回答にはっとするなり、思わず急ぎ足で問う。
「え? “オオカミ族”……? ――し、身長は?」
「え? 身長ですか? ――う~ん。――とりあえず、俺よりは全然高かったですね。――だから、190以上はあるんじゃないですか?」
「まさか……。――ねぇその方って」
「あ~っ!!」
桔流の回答に、法雨が重ねて問おうとしたところで、桔流は突然、何かを思い出したかの様に声をあげた。
それに対し、法雨は、驚きながらも窘める。
「もう! 突然、何よ! 吃驚するじゃない! お客様に聞こえたらどうするの!」
「あ……、すいません……」
そして、ぺこりと反省した桔流に、胸をなでおろしながら溜め息をつくと、法雨は続けた。




