Drop.008『 The MOON:U〈Ⅱ〉』【2】
「さっきも言ったように、様々な運命は、条件に合った選択肢さえ選んでいけば、簡単に受け取れるものだ。――つまり、自分が望む、特定の運命を受け取るためには、無限大の選択肢から、条件に合った選択肢を選び、必要な条件を揃える必要があるわけだね。――でも、逆に云えば、その条件を揃える事が出来ない限りは、永遠に、望んだ運命を受け取れないって事だ。――だからさ、今、自分が受け取れた運命が、少なからず良いものであったなら、“もっと良い流れがあったんじゃないか”――なんて、余計な事を考えず、幸せな今と、これからの選択に時間を使った方が、その先の未来も、きっと楽しくなると、俺は思うよ」
菖蒲が、そう言って微笑むと、法雨は、重荷を手放したような――さっぱりとした表情を作り、溜め息交じりに言った。
「そうね。――確かに、今のアタシじゃ、あの子たちはそれくらいしかできなかったみたいだし。――だからこそ……、それが、アタシの最善の選択だったわけよね」
「そっ! ――そ~いうコトっ」
菖蒲は、そんな法雨に、満足げに頷いた。
そして、余っていた紅茶を飲み干すと、しばし考える様にして、自身の顎に手をやった。
「う~ん……、でもなぁ~……、――俺は平和主義だから~、皆揃ってハッピーエンドなら、それはそれでいいんだけど~……、――とは云え……、――俺の知らないトコで、そ~んなお子ちゃまオオカミたちが、俺の大事な法雨のコトを好き放題食べてた~ってのは~、ちょ~っと頂けないなぁ~……」
「アラ。珍しい。――菖蒲がそんなお子ちゃまたちにも嫉妬するなんて」
「だってさぁ~?」
駄々をこねるようにして不満を紡ぐ菖蒲に、法雨が笑って言うと、菖蒲は近場のクッションをひしりと抱き、駄々を続けた。
「――年下相手の時の法雨はさ~、“食べる方”専門だったじゃん~? ――なのに~、今回はそのお子ちゃまオオカミたちに、大人しく頂かせちゃってたんでしょ~? ――ここ最近じゃあ、法雨を“食べる”のは、俺だけの特権だったのにさぁ~」
「ふふ。そうねぇ。――でも、今はまた、アナタだけの特権に戻ったじゃない?」
「まぁ~……そうなんだけどぉ~……、――う~ん……」
「あらまぁ。アタシが思ってた以上に、秘密だったダメージが大きかったみたいねぇ。――特権が戻るだけじゃ満足出来ないご様子かしら?」
「まぁね~……。――それに~、俺が法雨を食べられるのも~、法雨がフリーの間だけなんだよ? ――そんな時間制限つきの法雨なんだから、他のコに分けてあげられる分はないんだって」
法雨は、そうして駄々をこねながらクッションと熱い抱擁を続けている菖蒲を、おかしそうにして笑った。
法雨と菖蒲は、あくまでも無二の親友同士であり、恋人同士ではない。
そして、恋人同士となった事もない。
だが、そんな彼らの間には、恋人以上とも云える特別大きな信頼があり、二人は、友情と云うには大きすぎるほどの、強く深い絆で結ばれている。




