Drop.002『 WHEEL of FORTUNE:U〈Ⅰ〉』【1】
子供の頃に絵本で見た王子様。
運命の人というのは、きっと、この絵本の中の王子様のように、強くて優しいヒトなのだろう。
彼は、そう思っていた。
それゆえに彼は、そんな、――絵本で見た王子様のような人との運命の出逢いに憧れていた。
そんな彼がお気に入りだった絵本に登場した王子様は、オオカミ族の王子様だった。
そのため、彼はオオカミ族の男に恋をする事が多かった。
だが、どれだけ恋を重ねても、運命のオオカミと出逢う事は出来なかった。
しかし、それでも彼は、運命の人との出逢いに夢を抱き続けた。
“たとえどんな経験をしようとも”――、運命の人を探し続けた。
そして、その果て――、彼はついに、人生で最も最悪な運命の出遭いを経験する事となった。
そうして彼は、その残酷な運命の仕打ちに夢を打ち砕かれ、運命の人との出逢い――などというくだらない憧れを捨てたのであった。
そんな彼はその後、家族にはそれまでと変わらぬ様子を演じ、真実を偽りながら、実際には自暴自棄な日々を送るようになった。
だが、いくら運命に弄ばれようとも、優しく愛情に溢れた温かな心と、己を求められたいという欲求だけは、捨てる事が出来なかった。
そして、それが出来なかったからこそ――、彼はその先も、残酷な運命に弄ばれ続ける事になったのである――。
― Drop.002『 WHEEL of FORTUNE:U〈Ⅰ〉』―
「――おい! そこで何をしてる!」
その日――。
普段は物静かなその場に、突如、鉄製の扉を強く殴打した事による大きな衝撃音が響き渡ると、次いで、低く威圧的な大声が続いた。
法雨は、その音と声に少しばかり驚きながら、今しがた、外から強く殴打されたらしい倉庫の鉄扉を見やる。
その倉庫は、法雨が経営するバーの専用倉庫だった。
そんな専用倉庫は他にもいくつかあるのだが、法雨の居るその倉庫は、普段、店の従業員ですらほとんど入る事のない倉庫であった。
それゆえ、その日の店仕舞いも済んで久しい、このような明け方には、法雨ですらほとんど立ち寄る事のない場所だ。
さらに云えば、この倉庫の入口が裏路地に面している事から、一般人が間違えて辿り着くような場所でもなかった。
静かにさえしてさえいれば、何をしていようが誰にも見つかりはしない――、と、云えるほどに――。
だからこそ、法雨は、あえて“彼ら”にこの場所を使わせていたのだ。
「なっ……! おい! ふざけんなっ!! ――外、誰か見張ってなかったのかよ!!」
とは云え――、例えそんな“絶好の場所”であったとしても、見張りはつけるべきだ。
秘め事をしているのなら、尚の事――。
「――しっ、知らねぇよっ!! ここなら誰も来ないんじゃなかったのかよっ!!」
慣れ――と云うものは、秘め事や悪事の際には、非常に恐ろしい存在だ。
それにやられれば、油断を誘われた挙句、秘めたい悪事には制裁が下される状況を与えられかねない。
例えば、この倉庫内に集っていた青年たちのように――。
そんな青年らのほとんどは――、恐らく彼らよりも身も心も強いのであろう何者かの声にすっかり萎縮し、その毛羽立った耳と尾を情けなく下げながら、未だ震えた声で怒鳴り合いを続けている。
彼らは全員、オオカミ族の亜人であった。




