Drop.007『 The MOON:U〈Ⅰ〉』【1】
法雨が、京たちとの和解を経たその後。
若いオオカミたちは、法雨との密会目的などではなく――、ごく普通の客として、法雨のバーに訪れるようになった。
そして、そんな――法雨とオオカミたちの密かな関係を知らない従業員たちは、気さくな常連客となった彼らと、次第に親しげに話すようにもなっていった。
その当初、法雨は、そうして親しくなってゆく彼らの様子を、少しばかり不安げに見守っていた。
改心したとは云え、必要に迫られた際の彼らの側面を知っているがゆえに、警戒心をすぐになくす事はできなかったのだ。
だが、そんな法雨の心の内を知ってか知らずか、和解した後の彼らは、度々と、
「――あの、“大丈夫”なんで。――今日も、酒も飯も美味かったです。御馳走様でした。――おやすみなさい」
と、口々に言っては、ぺこぺこと頭を下げて店を出てゆくのを、法雨への挨拶の一環としていた。
そのような彼らの誠意に緊張を解かれてか、法雨は、それから日が経つにつれ、未だ残していたわずかな警戒心をも、徐々に手放してゆけたのであった。
― Drop.007『 The MOON:U〈Ⅰ〉』―
かつては、その人生までをも己の本能に振り回されていた未熟なオオカミたちだったが、雷による手助けもあってか、最近は、自身らの体質と、随分と上手く付き合えるようになってきているようだった。
そんな解放感からか、最近では、仲間同士で遠くまで旅行に出かけたりもしているらしく、その際には店に土産を持参するなど、数か月前の彼らからは想像もできないような可愛らしい事もするようになり、そんな彼らの表情もまた、日に日に陽気を纏っていった。
また、そのように明るさを取り戻してゆく中――、彼らは、法雨にこのような事も言うようになった。
――あの、俺らが言えた義理じゃないんですけど……、――もしも店とか法雨さんに何かあったら、いつでも俺ら使ってください。――あんな事した分の償いもしたいんです。――体力には自信ありますから、雑用でも力仕事でも、何でも任せてください。
「――へぇ~。――じゃあ、そのコたち、――今じゃすっかり、法雨の可愛いワンちゃんたちになっちゃったわけだねぇ」
「ふふ。そうね。――確かに、あの子たちにはもう、オオカミらしさは感じられないわね」
法雨から、“丸くなったオオカミたち”の話を聞き、楽しげに感想を零した彼に、法雨は笑って言う。
ローテーブルを挟み、法雨と向かい合ってソファに腰かけている彼は、その日の客人であり、法雨の――十年来を超える親友でもある。
名は、夢廼 菖蒲と云う。
そんな菖蒲は、フェネック族であるのだが、先祖が小柄な割に、彼自身は特に小柄というわけでもなく、先祖を感じさせるのは、その驚異的な運動神経と気ままな性格くらいであった。
法雨は、菖蒲と共に、心地よい香りを纏うティーカップにひとつ口をつけると、微笑んで言う。
「――でも、きっと、今のあの感じこそが、あの子たちの本来の姿なんだろうって、思うのよね」
その法雨と共に、春摘みのダージリンの優しげな香りと温もりに癒されながら、菖蒲も楽しげに言う。




