Drop.006『 The HIEROPHANT:U〈Ⅲ〉』【3】
「――それと、散々酷い事をしたのに、それでも、俺らの事を考えてくれて、――本当に有難うございました」
「――……え?」
必死に言葉を探し回っていた中、さらに意図の理解できない礼まで告げられた法雨は、思わず疑問の意を示す。
すると、京は、苦笑するようにして言った。
「――これは、“言わなくていい”って、雷さんに言われてたんですけど……、――でも、雷さんの事も全部言っちまったんで……。――その、雷さんから聞いたんです。――俺らが口止めなんかしなくても、店長サンはそもそも、俺たちの事を警察に言う気なんてなかったって。――それで、雷さん言ってたんです。――多分、法雨さんは、バーの従業員のためだけじゃなく、俺らの事も考えて、黙って受け入れてくれてたんだろうって……、――だから」
「――ちょ……、ちょっと待って。――それは、違うわ……!」
さらに紡がれた京の言葉に、法雨はようやっと言葉を紡ぐ。
「――別に、警察に連絡しなかったのは、アタシが面倒くさかったから。――ただ、それだけよ……! ――アナタたちのためなんて、そんな大層な理由じゃない」
確かに、何故だか彼らを“ただの悪”とは思えず、それゆえに警察に突き出す気になれなかったのは、事実だ。
もしかすると、倉庫での交わりの中、法雨への接し方や彼らの様子から、彼らに“悪らしい悪”を感じなかったがゆえに、法雨はそう思ったのかもしれない。
だが、いずれにしても、あの密会を通じ、法雨自身も――求められる事に満足感を得ていたのも事実だ。
だからこそ、法雨は、そんな己の行いを、そのような綺麗事として受け取ってほしくなかったのだ。
「――いい? アタシはね、一晩だけの関係だろうが、愛情なんてない欲まみれの関係だろうが、満足できればなんだっていいって思ってるの。――それに、アナタたちは別に、アタシに暴力を振るったりしなかったし、痛めつけようともしなかった。――だから、今回の事だって、無理やりさせられたとも思ってない。――警察に言わなかったのは、警察を頼るほどの事じゃないから。それだけ。――それと、勘違いしてるようだから言っておくけど、アタシ、アナタたちが思うような、おキレイな身じゃないから」
法雨は、彼らが抱く自身への幻想をなんとしても否定すべく、有無を言わせぬようわざと多くの言葉を連ねたが――、そんな法雨の言葉を聞き終えるなり、京は、法雨を見据え、また苦笑しながら言った。
「――いや……、店長サンは綺麗ですよ……。見た目だけじゃなく、中身も……。――なんつぅか、俺がこんな事言うの変ですけど……、――店長サンが綺麗だったから、あんな馬鹿な事して、歯止めまできかなくなっちまったんだと思います……」
法雨はそれに、また大いに納得がいかなかったが、反論を上手く組み立てられなかったため、小さく溜め息をついては不満げに視線を逸らす事で異議を申し立てた。
もちろん、自身の外見に加え内面まで、綺麗だ――などと褒められる事が、嬉しくないわけではない。
だが、今回ばかりは、その称賛を喜んで受け取る気にはなれなかった。




