Drop.006『 The HIEROPHANT:U〈Ⅲ〉』【2】
「――でも、店長サンに声をかけたのは、酒と、色々溜まってた勢いだったっていうか……、――最初はどうせ上手くいかないと思ってたんです……。――きっと、全員で囲んだって、拒否されておしまいだろう、って……。――でも……、店長サンは抵抗どころか、拒否もしなかった……。――それで、ついに抑えがきかなくなっちまったんです。――こんなの、ただの言い訳ですけど、――これまでずっと、ずっと我慢してきたから……、――だから……、その分、余計抑えらんなくて……」
「――そう……」
そんな京の言葉を受け、法雨は、彼らの“理由”を、優しく受け取る事にした。
長きにわたる飢餓の果て――、至高の味だが食せば罰されるとされてきた果実が目の前に転がり落ちてきたならば、手を伸ばしたくならないわけがない。
しかも、欲望に耐え切れず、初めてその果実を手に取って齧ってしまった時――、罰されるはずだった行為が誰にも見られずに済み、それゆえに罰されずにも済んでしまったのだ。
罰されない術がある事を――、彼らは知ってしまったのだ。
だからこそ、彼らはついに、その次も、その次の次も、果実を食す事を踏み止まれなくなった。
「――頭では、こんな事したらダメだって分かってたんです……。――でも、耐えられなかった……。――しかも、店長サンは、それからもずっと、何回も、俺らの事を受け入れてくれた……。――だから、俺ら……、そんな店長サンに依存して、甘えちまってたんです……」
久々に味わったその快楽は、彼らの脳を麻痺させるには十分な劇薬であっただろう。
もしかすれば、法雨を貪り終える度、彼らもまた、大きな後悔に抱かれていたのかもしれない。
だが、その後悔による苦痛すらも歯止めにならないほど、その快楽の中毒性は強かった――。
「――でも、雷さんに声かけてもらってからは、頼れる人が出来て気持ちも楽になったし、――自分らに合う抑制剤も処方してもらえるようになったり、発作の対処法とか、この体質との付き合い方とか、色々教えてもらったんです。――だから」
京はそこで言葉を区切ると、まっすぐに法雨を見据え、――続けた。
「――もう二度と、あんな事はしません。――信じられなかったら、信じなくていいです。――俺たちがした事は、それほどの事だって事は自覚してますから。――ただ……、信じてもらえなくてもいいんで、――どうか、謝らせてください」
そんな京の言葉を機に、周りの仲間たちも腰を上げ、法雨にその身を向けると、群れのリーダーと共に姿勢を正した。
そして、京が、
「店長サン……。――あんな酷い事をして、本当にすみませんでした」
と言い、頭を下げると、そんなリーダーに倣い、若いオオカミたちは皆、それぞれに謝罪を口にし、揃って頭を下げた。
「――え、あぁ……、ええと……」
法雨は、その突然の流れに動揺したが、何かしらの言葉で応じなければと急いで思考を巡らせる。
だが、そんな法雨の言葉を待たず、京はさらに続けた。




