Drop.005『 The HIEROPHANT:U〈Ⅱ〉』【2】
「――……はい。――と、云うより、その……、俺だけじゃなくて……、――こいつら全員……そうです……」
「――………………」
京の言葉に、法雨は思わず黙す。
獣性異常の体質である場合、月の満ち欠けに応じ、性別問わず、生殖本能が自制できないほどに強くなる時期がやってくる。
それを、“獣性発作”――と呼んだりもするのだが、――発作の程度や周期には個人差があるものの、主に発作が起こりやすいのは、満月や新月の時期とされている。
そして、獣性異常と診断された者には、獣性レベルに応じた専用の抑制剤の処方が無償で行われるため、発作の時期に応じ、その抑制剤を服用する事が主な対処法だ。
つまりは、その抑制剤が無ければ、理性ごときでは耐えられないほどに強力な欲求発作が、毎月ごとに起きる――という事である。
「――俺ら……、店長サンに目ぇ付けた時にはもう、色々ヤケになってて……」
「――ヤケ? ――どういう事……? ――薬を飲み続けるのが嫌になったとか?」
「――いえ……、そうじゃなく……」
「――……?」
京の言葉を受け、不思議にする法雨に、京は続ける。
「――俺ら……、自分たちが獣性異常だってのは、ガキの頃からちゃんと分かってたんですけど……、でも……、――“薬抗体質”って事までは、分かってなかったんです」
「――薬抗体質……」
「はい……」
京の云う――“薬抗体質”とは、その字の通り、アレルギー物質が個人で異なるのと同じように、――自身の身体に対し、薬抗対象として該当する薬や成分の効果が十分に発揮されない、または、発揮されにくい体質の事だ。
もちろん、獣性異常の者が薬抗体質であっても、抑制剤さえ薬抗対象でなければ問題はない――のだが、不運にも彼らは、まさにその――抑制剤系統が薬抗対象だったのだろう。
「――でも、俺ら、それに気付かないまま、ずっと処方された抑制剤使ってたんです……。――だから、成人してからは、ほとんど抑制できないまま、発作に必死に耐える様な感じで過ごしてて……、――それで、こんな人生送んなきゃいけない事にも、どんどん苛ついてきて……」
そんな京の言葉に、恐らく、京と同じ状況にあったのであろう周りの仲間たちは、皆、苦しそうな表情をした。
恐らく、彼らそれぞれで思い出す事があるのだろう。
「――ただ、発作が起こる時期も、酒飲んで酔っちまえば、身体も怠くなって、脳も麻痺するから、――薬がなくても大分マシになれるってのに、ある時期から気付いたんです……。――だから、効かない薬飲んで必死に耐えるより、酔い潰れるまで高い酒飲んで楽しんだ方が良いやって思って……。――そうやって飲み歩いてる時、店長サンの店に行ってみたらすげぇ良かったから、――それで、そっから店長サンのとこによく行くようになった、って感じなんですけど……」
「――……そうだったのね」
彼らが、まだ普通の客であった当時――。
法雨は、その若さにそぐわぬほどの豪勢な楽しみ方に対し、口には出さずとも、若気の至りで散財しているのでなければ良いが――などと思っていたが、――その真相は、もっと深刻なものであったようだ。




