【New】LastDrop ✦ Drop.031『 The WORLD:U 』【3】
「花厳さん……。さっきまで姫たちの所に居たじゃないですか……。どうしてそうタイミングが悪いんですか……」
その桔流に、花厳は苦笑して言う。
「いやぁ……、ちょうど来た所だったもので……」
「本当に、いつもながら素晴らしいタイミングだね。花厳君」
そうして、じとじととした桔流にぎゅうと正装の裾を握られる花厳に、雷が朗らかに称賛を贈ると、彼はまたぎこちなく笑った。
すると、その空気に耐え切れなくなったらしい桔流は、花厳の手をわしりと掴んでは言う。
「だぁ~もう! ここに居るのなし! ――ほら、花厳さん! ここに長居すると二人の邪魔になりますから! 俺たち“木役”はあっちに行きますよ!」
「ははは。分かった、分かった」
それに、美形“木役”の花厳が楽しげに笑うと、その愛豹の手をぐいぐいと引きながら、色白美人“木役”の桔流はずんずんと退場していった。
そんな二人の背を見届けながら、法雨と雷がくつくつと笑っていると、不意に、その背後からのんびりとした声が聞こえた。
「う~ん。ドレスって云えば~、やっぱり“後ろ”のセクシーさも見逃せないよねぇ~」
その声に法雨が振り返ると、そこには、彼の唯一無二の親友――夢廼菖蒲が居た。
「まったく。アンタはそういうコトばっかね。――相変わらず」
その法雨に、菖蒲はによによとして言う。
「“イイ本音”は、どんどん口に出していかないと損だからねぇ~」
そんな菖蒲に、口元を綻ばせながら溜め息をついた法雨は、次いで、菖蒲のもとへと歩み寄ると――、その頬に両手を添えて言った。
「ほら、菖蒲。――アタシ、ちゃんと幸せになったわよ。――だから……、――次は、アナタの番」
菖蒲は、その言葉に幾度か耳をはたりとさせては、大ぶりな尾をふわりと揺らすと、苦笑しながら言った。
「もう。法雨……。――今くらいは自分の幸せだけを見ててよ……」
法雨は、そんな菖蒲の頬をぎゅうと両手で押すと、窘めるようにして言う。
「ダメよ。――もう逃がさない。――いいコト? 菖蒲。――アタシはね、アンタ“も”幸せにならないと、ちゃんと幸せになりきれないの。――だから、――ここからはちゃんと、“アナタの幸せのために”生きて」
その法雨の想いに、菖蒲は愛おしげに苦笑しては、観念した様子で言う。
「はぁ……。しょうがないなぁ。法雨は。――……分かったよ。――じゃあ、“俺の望み通り”、先に法雨が幸せになってくれたから、――そんな法雨の“最高の幸せを完成させるため”にも、――ここからは自分の幸せのために生きるよ」
その菖蒲に、法雨は酷く嬉しそうに笑む。
「えぇ。――そうしてちょうだい」
菖蒲は、そんな法雨と楽しげに笑い合うと、次いで、くるりとその身を翻しては、法雨と雷に背を向けた。
そして、陽光でふんわりと艶めく琥珀色の尾を上機嫌に揺らしては、その両腕を燦々と輝く天に向けぐぐと伸ばして言った。
「さ~て、それじゃあ、俺も、法雨の幸せの総仕上げに向けて、“王子様狩り”、始めますかねぇ~」
そんな菖蒲に思わず眉を顰めた法雨は、その背に反論を紡ぐ。
「え? ちょっと、アンタ。“俺も”って、何よ。――アタシは“王子様狩り”なんてしてないわよ?」
すると、背中越しに振り返った菖蒲は、にやにやとして言う。
「え~? そうだったの~? ――戸惑う“王子様”を誘惑してお家に強引に連れ込んで~、“その夜のうちに食べちゃった”のに~?」
そんな菖蒲に、法雨はさらに反論を紡ぐ。
「な……、――だ、だから、――それは、そういう話じゃないって言ってるで」
「さぁ~て~、俺に“食べさせてくれる”王子様は、ど~こっかな~」
しかし、そんな法雨の声など聞き入れる気もないらしい菖蒲は、その反論を遮るようにして言うと、のんびりと歩みながら、来賓客たちの輪の中へと戻っていった。




