第三章-2 夜明けのあわい
淡い光が、天蓋越しに差し込んでいた。
ルークは、すでに目を覚ましていた。
腕の中にある温もりを、確かめるように感じながら、その寝顔を静かに見つめている。
あどけない。
昨夜、あれほどの覚悟を宿していたとは思えないほど、今は、年相応の穏やかな表情だった。
(……最後まではしないつもりだった)
胸の奥で、静かに思う。
後悔がないわけではない。
だが――彼女が自分で踏み出した一歩を、なかったことにはできなかった。
そのとき、腕の中の身体が、かすかに動いた。
アリーシャが、目を覚ます気配。
咄嗟に、ルークは呼吸を整え、目を閉じた。
眠っているふりをするなど、本来の自分らしくはないとわかっていながら、咄嗟の行動をとってしまった。
——今は、まだ。
アリーシャは、ゆっくりと目を開ける。
最初に感じたのは、温もりだった。
自分の背に回された腕。規則正しい呼吸。
そっと視線を上げると、そこには目を閉じているルークの顔があった。
起きているときの精悍さはなく、無防備で、静かな表情。
(……昨夜……)
記憶が、ゆっくりと胸に満ちる。
触れられた指先。
重ねられた唇。
そして――
思い出した途端、頬に熱が集まるのを感じた。
ルークは閉じた瞼の裏で、はっきりと視線を感じ取っていた。
――見られている。
その事実に、心臓がわずかに跳ねる。
…抱きしめたい。
もう一度、その温もりを確かめたい。
だが、ルークは動かない。
――ずっと見られていることに居た堪れなくなり、ようやく、ルークはそっと目を開く。
低く、穏やかな声で、囁くように言った。
「……起きましたか」
朝の光は、等しく二人を包んでいた。
けれどその心は、まだ、夜と朝の境にあった。
——夜明けの、あわいだった。




