表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇国のアリーシャ  作者: 岡井チマ
第二部
67/84

第十章-2 約束の帰還

 

 ルークは馬の手綱を緩め、ゆっくり息を吐いた。


「……助かった」


 振り返り、少し離れた場所にしゃがみ込むジークハルトに声をかける。ジークハルトの胸当てや小手には血がこびりつき、マントは裂けている。ジークハルトもまた、緊張が和らいだ表情をしていた。


「間一髪、だったな」


 淡々とした声にで、手を振り返すジークハルトに、ルークは苦笑し近づく。


「一人で追跡してたって聞いたぞ。無茶をする」


 視線をガルデが去った方角へ向ける。


「時間がなかったしな。それに……証がなければ、戦になっていた」


「そうだな」


 やがて、ルークが低く言った。


「俺は……三日と、言われた時、腹を括った。もう、戻れないかもしれない、と。アリーシャの顔が浮かんだんだ」


「素直じゃん」


 ジークは静かに苦笑する。


「それを、陛下に直接言ってやればいいのに」


 ルークは一瞬、目を細め、ジークハルトを睨む。しかし文句は言葉にならない。


「……」


 ジークハルトは、深く息をはき、苦笑しながら立ち上がった。


「ルーク。前に、俺が言った言葉、覚えてるか?」


 ルークは、ジークへ顔を向ける。


「……ああ。弱さを見せ合え、だったな」


「お前は陛下が弱ってても、支えたい、守りたいって思えるだろ?頼って欲しいって。陛下も同じだと思うぞ」


 その一言に、ルークの表情が変わる。女皇であろうと、気丈に振る舞っていたアリーシャ、体調が悪くても、押し通そうとしたアリーシャ。そうか、俺はもっと頼られたかったのか。

 そして、バロンに対する嫉妬や、アリーシャにいだく独占欲、劣情、絶対に見せたくないと思っていたこの気持ち。嫌われたくない、必要とされたいと思うこの気持ちも、ルークの本心だ。

 では、アリーシャはどう感じていたのだろうか。俺が隠そうとするたび、彼女は。

 ルークは小さく息を吐き、兵士たちへと声をかけてた。


「皇都へと、帰還する!」


 二人は馬に乗り、戦場を後にする。待つ者のもとへと、帰るために。



 帰還の報せが届いてから、城の空気が変わった。張り詰めていたものが、今度は落ち着かない緊張へと変わる。

 アリーシャは正門へ立っていた。背後には近衛兵と侍女たち。空はまだ薄く曇っている。遠くで蹄の音が響く、隊列が見え始める。気が急いて、知らず一歩前へ足が出る。先頭に、見慣れた姿がみえた。マントを翻し、ルークがゆっくりと戻って来た。馬が止まり、彼が降りる。

 形式上は、ここで跪き、帰還の報告をするのが筋だ。だが、二人の視線が絡んだ、その瞬間、何もかもひどく遠く感じた。アリーシャが、先に歩み出る。兵たちがわずかにざわめくが、構っていられない。もう強いふりはしない。


「……よく、戻ってきてくれました」


 声は静かだが、わずかに震えている。ルークはその震えを、聞き逃さない。


「約束しただろう」


 低く、穏やかに答える。そして――ルークは歩み寄り、アリーシャを強く抱き寄せる。鎧越しでアリーシャが痛い思いをするかもしれない。小さな息が、彼女の喉から零れた。そして、アリーシャの手が彼の背に回る。


「……心配、しました」


 胸に顔を寄せたまま囁く声が聞こえた。女皇としてではない、一人の妻としての安堵の声。ルークの喉が、わずかに震える。


「……俺もだ」


 それは告白だった。彼は抱きしめる力を、少しだけ強める。


「でも、約束しただろう?帰ってきた」


 アリーシャは、目を閉じ、こくん、と頷く。


「……帰ってきたら、たくさん話したいことがあるの」


 ゆっくりと顔を上げ、ルークと視線が合う。


「……俺も、話したいことがある。聞いてくれるか?」


「もちろん」


 兵士たちの視線がある。そんなこと、関係なかった。彼は額をそっと彼女の額に触れ、もう一度、強く抱きしめる。


「もう、離してやれないや」


 兵士たちは目を伏せる者もいれば、静かに微笑む者もいる。咎めるものは誰もいない。やがて、ルークが名残惜しそうに腕を緩める。だが完全には離さなかった。手を引き、抱き上げる。


「帰ろう」


「ええ」


 アリーシャは、腕をルークの首に回した。二人は城へと歩き出す。曇っていた空が、わずかに明るんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ