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皇国のアリーシャ  作者: 岡井チマ
第二部
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第三章-1 支援の始まり

 数日後、ガルデへの支援の詳細をまとめる話し合いが始まった。文官たちが執務室へと訪れ、一つ一つ提案を行う。


「ガルデへの物資支援について、具体案がまとまりました」


 差し出された書類に、アリーシャは目を落とす。比較的余剰のある中央から穀物や保存食、医療品などをまとめる。そして、皇国内北部の辺境を経由し、国境を越えガルデへと送られる。


「支援の開始は、予定通り進めてください。ただし、物資の量と期間については、定期的な見直しを」


「承知いたしました」


「エストリアへの仲介についても、あくまで橋渡しに徹しましょう」


 文官たちが書き留めていく中、アリーシャは一瞬ルークの方を見る。彼は、何も言わずに頷いたが、それだけで十分だった。この場では、女皇が決断し、王配は不足があれば、補うだけ。それが、二人の役割だった。

 文官が退出し、静かになった執務室。アリーシャは指先で書類の端を揃えながら、息をついた。


「……エストリアへの仲介については、今はガルデからどのような要望があるのかは分かりませんが、セレスティアが仲立ちを請け負う旨だけでも、先にお伝えしておいた方が良いかと思います。アルタイル卿へも、手紙をお送りしておいた方がいいかしら」


「そうだな、こちらの意向を伝えておけば、良いように働きかけてくれるかもしれない」


 ルークは頷き、しかし視線を窓の外へ向けた。


「あとは、早急に辺境の防衛を立て直す必要がある」


 アリーシャが顔を上げる。


「辺境……ですか」


「ああ。カイン殿下の地盤だった土地だ。再編は進めているが、もとより右派に傾いたところだ」


 言葉は淡々としているが、そこに迷いはない。


「新たに人を立てるつもりだ」


「どなたを登用するか、目星は立っているのですか?」


「レオナール・グランディール。正規軍第3隊の副隊長で、グランディール侯爵家のご子息だ」


 アリーシャの目がわずかに見開かれる。


「……グランディール侯爵家の三男?以前、あなたに挑んでいらした?」


「ああ。返り討ちにしたが、未だに懲りずに挑んでくる。思ったより気骨があるやつだ」


 アリーシャは静かに考える。グランディール侯爵は右派に近い。その三男を任命する意味。


「派閥への牽制も考えてのこと?」


「それもある。だが、あいつ自身は派閥に執着していない。熱意も、野心もある」


 ルークの視線が一瞬柔らぐ。信頼している者への表情に見えた。


「わかりました。そのようにお願いします」


 ルークは軽く頷く。


「補佐には、グランディール侯爵の腹心がついてくれる」


「ということは、すでに侯爵には打診していらっしゃるのね?」


「ああ」


 アリーシャは微笑む。


「あなたは、ずいぶん先まで見ておられるのね」


 ルークは一瞬だけ視線を逸らした。


「……それが俺に出来ることだから」


「ありがとう。助かっています」


 その言葉に、わずかに空気が和らぐ。


 昼からルークは正規軍の兵営へと向かう。アルベルトには先に知らせており、総司令室にはアルベルトと、レオナール・グランディールの二人が待っていた。

 レオナールは長身で、体格も良く、やや赤毛の硬い髪をもっていた。若さからか、まだ少し緊張も抱えた顔つきをしていた。ルークば入室すると、二人とも起立し、礼をとる。


「待たせたな。」


 ルークはそれを受け、応接用のソファーへと座る。


「わざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます。王配殿下」


「正式な通達だ。場を借りる」


 アルベルトはわずかに口端を上げた。ルークはレオナールに向き直り、声を少し張り上げて伝えた。


「レオナール・グランディール副隊長」


「はっ!」


 レオナールは背筋を伸ばし、真っ直ぐな瞳がルークを見据えている。


「貴官を、辺境守備隊長に任じる」


 副隊長から、いきなり辺境守備隊長。レオナールは驚きを隠せず、目を見開いた。そんなレオナールを他所にルークは続ける。


「カイン一派の基盤だった地だ。再編は進めているが、未だ不満分子は潜んでいるだろう。重要な地だが――お前に任せたい」


 真っ直ぐレオナールを見据え、問いかける。あえて、命令はしない。


「頼めるか」


 レオナールは一瞬だけ息を呑んだ。辺境守備隊長とはいえ、若手からの抜擢である。武功を立てるには、これ以上ない舞台だ。

 レオナールはすぐさま、膝をつく。


「お任せください!」


 迷いのない声だった。アルベルトが笑いながら前に出る。


「腕は心配しとらん。びしばししごいたからな」


 レオナールの背中をビシバシと叩きながら、しかしすぐに笑みは消え、声が引き締まる。


「だがな、隊長として赴くからには、人を使う術を学んでこい。剣を振るうだけの仕事ではない。部下を死なせるか、生かすかは、お前の判断一つで決まるんだ」


 レオナールは顔を上げる。一瞬、空気が重くなるも、力強く返答する。


「肝に銘じます!」


 ルークはその様子を静かに見つめていた。


「補佐には縁のある実力者をつける。だが最終判断は隊長であるお前が行うんだ」


 わずかに間を置く。


「辺境は甘くない」


 その言葉だけが、低く落ちた。レオナールは大きく頷いた。だがその胸には、まだ知らぬ戦場への高揚もあった。――自分ならやれる。やってみせる。

それは、栄誉であり、試練でもあった。


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