第一章-2 兄王の弔い
その日、執務室へノックと共にるジークハルトが入ってきた。
「陛下。エストリアより書簡が届いております。ユリウス・アルタイル殿が私的な訪問を望んでおられるとか」
ユリウス・アルタイル。セレスティア皇国の隣に位置するエストリア共和国の首相の息子である。年齢はケイネスと同年代で、親交も深かった男だ。アリーシャはあまり面識はないが、兄からは気安く話ができる数少ない相手と聞いていたと、アリーシャはルークに説明した。
「アルタイル卿はすでに城下に滞在されているそうですが、弔問に伺いたいとおっしゃっています。いかがなさいますか?」
アリーシャはチラリとルークを見て、ジークに向かって穏やかに頷いた。
「ええ。予定を調整して、お迎えして」
ルークに視線を向けたのは、まるで大丈夫だと伝えるようだった。その声音には、迷いも気負いもなかった。女皇としての判断が、もう自然に身についている。
後日、整えられた応接間にて、その客人を迎えることとなった。深い青を基調とした衣装に、異国の文様を織り込んだ外套。褐色に近い肌と、穏やかに細められた目元が、知性と余裕を感じさせる。
「お久しぶりです、女皇陛下。そして……、お初お目にかかります。王配殿下」
ユリウスは、アリーシャに一礼した後、ソファーの後ろに控えるルークにも、過不足のない敬意を向けた。
「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。アルタイル卿」
アリーシャは微笑み、席を勧める。そのやり取りを見ながら、ルークは思う。彼の視線には、探るような鋭さも、値踏みする不躾さもない。彼にとっては、ここはケイネスとの関わりもあった場所だ。思い出されるところもあるのだろう。こちらを見る目は、懐かしさやケイネスを悼むようで、しかしどこかで、新たに女皇となったアリーシャと王配であるルークを見定めているようでもあった。
「実は今回は、国としての正式な使節ではありません」
ユリウスはそう前置きし、少しだけ声を和らげた。
「ケイネスを弔わせて欲しいのです。ーー兄君のこと、呼び捨てて申し訳ありません。いつもそう呼んでいたもので。それから……あなた様が、どのように皇国を率いているのか、この目で確かめたかったのです」
アリーシャは驚いたように目を見開き、それから静かに息を吐いた。
「いえ、貴方であれば兄も、怒りはしないでしょう。兄を悼んでくださって……ありがとうございます」
ユリウスは小さく首を振る。
「彼から、よく聞いていましたよ。“自分よりも遥かに強い意志を持つ妹だ”と」
その言葉に、アリーシャは少し懐かしさで胸が締め付けられるように微笑む。ルークは、その様子を見て胸の奥が僅かに緩むのを感じた。ユリウスの視線が、再びルークへと向けられる。
「貴方のことも聞き及んでおります。この国で、女皇を頂くこと、それをお支えすること、並々ならぬ御覚悟かと思いますが、貴方ならケイネスも心配はないでしょう」
その一言に、ルークは静かに一礼で応えた。
そして、面会の後、アリーシャはユリウスを場内の礼拝堂へと案内した。そこには、ケイネスを悼むため国葬の後に設けられた追悼の場が静かに設けられていた。
アリーシャとルークが一礼をして下がると、ユリウスはひとり、亡き友の前に立ち、しばしの間ケイネスと語り合った。




