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皇国のアリーシャ  作者: 岡井チマ
第一部 
46/85

短編 剣戟の音

訓練場へ続く回廊を歩いていたときだった。

 乾いた金属音とともに、ひときわ朗らかな笑い声が響いた。


「ははっ、相変わらずいい太刀筋だな、殿下!」


 突き抜けるような快活な笑い声が、石壁に反響し、思わずアリーシャは足を止める。

 兵たちが集まり始めているのが見えた。


「おい、聞いたか?

 総司令官と、王配殿下が打ち合うらしいぞ」


「本当か? そりゃ見逃せないな」


 ざわめきが広がる中、アリーシャの胸が、わずかに高鳴った。


「……少しだけ、見てもよろしいかしら」


「訓練ですから、問題はありませんよ、姫様」


 ネリーとアンナは顔を見合わせ、アリーシャに付き従った。


回廊の先、訓練場ではすでに剣が交わっていた。

 アルベルトの剣は重く、鋭い。

 正面から叩きつけるような一撃を、ルークは受け、いなし、間合いを外す。

 火花が散る。

 息が詰まるほどの剣戟。

 アリーシャは、知らず知らずのうちに、胸の前で両手を組んでいた。


(……強い)


 それは、単に剣が巧みだという意味ではなかった。

 一撃を受け止める体幹。

 踏み込みの迷いのなさ。

 相手を見失わない視線。


 ――あぁ、この人は、戦う人なのだ。


 そう、改めて実感してしまう。

 頭では分かっていた。

 けれど、こうして目の前で、平常な状況で見ると、その事実が改めて分かる。

 剣戟の中で、ルークは一歩も退かない。

 アルベルトが楽しそうに笑う。


「いいなぁ、その落ち着き!

 ほんと、飽きさせない!」


 応じるルークは、言葉少なだが、その剣は、確かに語っていた。

冷静に剣戟を読み、打ち合いを楽しんでいる。


そんなルークの生き生きとした姿に、わたくしは――


 横に立つネリーとアンナは、その横顔をちらりと盗み見る。

 口には出さない。

 だが、その目が、かつてよりもずっと柔らかく、はっきりと「恋」を宿していることに、二人とも気づいていた。

 そのとき。


「……おや」


 背後から、聞き慣れた低い声がした。


「陛下も見物ですか?」


「ええ……偶然、音が聞こえて」


 ジークは、にやりと笑う。


「それで?――惚れ直しました?」


「っ……!」


 アリーシャが言葉に詰まると、即座に、ネリーが睨む。


「からかうのも、ほどほどにしてください、ジーク様」


「冗談です、冗談」


 ジークは肩をすくめ、再び視線を訓練場へ戻した。

 やがて、重い一撃が決まる。

 アルベルトの剣が、ルークの構えを崩し、膝を着かせた。勝負ありだった。


「俺の勝ちだな!」


アルベルトが剣を下ろす。


「……参りました」


 息を整えながら、ルークが顔を上げ――そして、こちらに気づいた。


「……陛下」


 慌てて剣を収め、アルベルトと並んで歩み寄ってくる。


「いやぁ、ご覧になられておりましたか!」


 アルベルトは、アリーシャの前で礼を行う。

 その横で、ジークが肩をすくめた。


「陛下の前で、いいところをお見せできませんでしたね、殿・下〜」


 その言葉に、ルークは苦い顔をして、ジークハルトに言い返そうとしたが――


「ルークは」


 アリーシャは、はっきりと言った。


「とても素敵でしたよ」


 一瞬、時が止まった。


「…………」


 ルークは咄嗟に口元を手で隠し顔を背けたが、耳まで真っ赤になっていたのは、隠せていなかった。


「ははっ!」


 アルベルトが腹を抱えて笑う。


「これは一本取られたな、殿下!

 剣よりよほど効いたんじゃないか?」


「……うるさい」


耐えきれず、ジークが吹き出した。


「ぶふっ!」


「……不敬ですよ」


 ネリーは再度、淡々と告げる。

 周囲の兵たちが、どっと笑いを漏らす。


「いやぁ、いいもの見た。

 殿下にもそのような一面がおありとは」


 アルベルトは満足そうに息を吐き――

 今度はジークを見た。


「じゃあ次は君だ、ペイル卿。

 手合わせ、どうだ?」


「あ、遠慮しておきます」


 即答だった。


「仕事が残っていますので」


 ひらりと身を翻し、そのまま足早に立ち去るジークの背中に、アルベルトは大きく笑った。


「今度は頼むぞー!」


 その声を背に、アリーシャはもう一度、ルークを見る。

 戦いのあとで、少し乱れた髪。

 それでも、まっすぐにこちらを見る眼差し。


(……やっぱり)


 無意識に、胸の前で組んだ手に、ぎゅっと力が入った。

 ――普段のルークと違った一面を見れたことが、嬉しかった。惚れ直した、などという言葉では、きっと足りない。

 そう思いながら、アリーシャは小さく、微笑んだ。



アルベルトが思いの外、いいキャラになりました。

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