短編 約束された未来
あの頃、世界は単純だった。
王城の園庭は高い木々と白い回廊に囲まれ、子供たちだけの小さな世界だった。
俺は十三歳で、ケイネスは十四歳。
そして――アリーシャは、まだ五つだった。
「カイン兄様、待って……!」
短い足で必死に追いかけてくる。
金色の髪が揺れて、何度も転びそうになりながら、それでも離れない。
当然のように、俺は歩調を落とした。
アリーシャが付いて来れるよう、見守っていた。
それでも、アリーシャはよく迷子になっていた。
そして、見つけるのは、いつも俺。
「……ほら、ここだ」
「よかったぁ……!怖かったよぅ!」
見つけた瞬間、彼女は泣き出して抱きついてくる。
小さな腕に震える体。その温もりが、胸の奥に残った。
周囲の大人たちは、微笑みながら言った。
「将来は、シュバルツ家と皇女の婚姻だな」
「お似合いですわ」
それは冗談でも、願望でもなかった。
当然の未来として語られていた。
だから俺も、疑わなかった。
アリーシャは、いずれ俺のものになる。
それが、世界の正しさだと。
だが――。
成長するにつれ、彼女は俺の後を追わなくなった。
視線は、いつしかケイネスの背ばかりを見つめるようになる。
(……いや、違う)
一時的なものだ。
そう思い込むしかなかった。
あの頃の約束は、消えていない。
消えているはずがない。
そう信じなければ、俺の世界は、崩れてしまうのだから。




