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短編 辺境伯としての日々

 辺境の城は、王都よりも風が強い。

城壁の上に立つと、視界の先には国境線が続き、その向こうに隣国ガルデの山影が見える。

この距離感こそが現実だ。

王都の議場で語られる理想よりも、現実である。

私はここで、辺境伯としての日々を送っている。

兵を整え、補給線を見直し、斥候の報告に目を通す。

隣国ガルデは特に大きな動きは見せない。

だが、動かないからといって、存在しないわけではない。


(均衡など、いつまでも続くものではない)


それは、誰よりも私が理解している。

ケイネスは言った。均衡を保て、と。

刺激するな、と。それは間違いではない。

だが、十分でもない。

 力を示さぬ中立は、ただの空白だ。

空白は、いずれ誰かに塗り潰される。

だから私は備える。

備え続ける。

この国が飲み込まれぬために。

 辺境伯という地位は、名誉ある役目だ。

それは事実だ。

王は、私を信頼している。

少なくとも、そう振る舞っている。

だが――

 王城の中心。

 意思決定の場。

 未来を決める会話。

 そこに、私はいない。

代わりに与えられたのが、この場所だ。

剣を振るう役目。

睨みを利かせる役目。

必要だが、選ばれない役割。

(……そうか)

 理解した瞬間、胸の奥が冷えた。

私は、王になるための男ではなく、王を守るための道具として置かれたのだ。



 夜、執務室で一人、酒杯を傾ける。

ふと、思い出す。金色の髪。

紫がかった瞳。

幼い頃、私の後ろを歩いていた少女。

アリーシャ。

 あの頃は、当然の未来だと思っていた。

誰も疑わなかった。

私も、彼女も。

(なぜ、遠ざけられた)

 王は、何も言わない。

だが、私は知っている。

視線を避けられるようになった時期。

接触を控えられた理由。

王宮での距離。

それは偶然ではない。

(奪われたのだ)

 王位も。

 彼女も。

 私から。


 *


 兵の報告が入る。

「ガルデが、また兵を動かしております」

「予測の範囲だ」

 私は即座に応じる。

動きは読める。

 あちらは、こちらの力を測っている。

――測らせればいい。

攻める気を起こさせなければ、それでいい。

それが、国を守るということだ。

(王都は、まだ分かっていない)

 この現実を。

 この緊張を。

 だからこそ、この国を導くのは、私でなければならない。


 最近、耳にする名がある。

 ルーク・アリスター。

 新興貴族で、子爵位を得たばかりの男。

(……なぜ、あの男が)

 血も、歴史も、重みもない。

それなのに、中心にいる。

胸の奥で、何かが軋む。

理屈では分かっている。

王は、別の道を選んだのだ。

だが、それは――

(間違いだ)

 世界はこんなにも脆い、そのうえで胡坐をかくのは、甘い選択だ。

 私なら、違う。

 私なら、この国を強くする。

強くして、守る。

それは、支配ではない。

当然の責任だ。



 夜更け、城壁の上に立つ。

風が、強く吹き抜ける。

この国は、小さい。

だが、まだ間に合う。

(俺が、正しい)

 そうでなければならない。

この世界は、正しい者が選ばれるようにできている。

――できているはずだ。

 だから、私は待つ。

奪われたものを、取り戻す日を。

それが、この国のためであり、彼女のためであり、そして――世界を正しい場所に戻すためなのだから。


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