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短編 支える者たち

 廊下の窓から、夜風が差し込んでいた。


「……また、かわされたな」


 ジークハルトの声は、いつもの軽さを保っていたが、その目は――冗談を許さないほど真剣だった。

ネリーは、足を止める。


「今は仕事中ですので」


「いやいや、今そんなに忙しくないでしょ」


「関係ありません」


いつもならここでジークハルトは引き下がるが、今日はどこか違っていた。


軽薄さはあっても、人との距離は適度に取っているジークハルトが一歩、ネリーへと詰め寄る。


「あんたが好きだ」


 回りくどくは言わない。


「冗談でも、気まぐれでもない」


 ネリーは、息を止めた。真剣な目で見つめられるが、受け止めきれなくて、顔を背けてしまった。


「あなたほどの方であれば、何も私でなくとも、お相手は大勢いらっしゃるでしょう」


「そんな相手はいない。俺はあんたがいい」


逃げようとするネリーの体を壁に押し付け、両手で挟み込む。

これで、彼女は逃げられない。


「……私は」


 観念したネリーは、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「姫様が、一番です。それは、これからも変わりません」


 ジークハルトは、頷いた。


「知ってるよ」


 迷いがない。


「それで、いい」


 ネリーが、驚いたように顔を上げる。


「俺も一緒に支える。ルーク殿下と、王妃殿下を。

あんたの“一番”を、俺も一緒に守る」


 その言葉に、ネリーの胸が、静かに揺れた。


(……この人は)


 私の大切にしたいことを尊重してくれる。

私の居場所を、理解してくれている。


「……それでも、私は」


 声が、わずかに震える。その一言を伝えることがひどく恥ずかしい気持ちがした。


「あなたを……想っている自分を、否定できません」


 ジークハルトは、そっと微笑んだ。


「それで、十分だ」


 触れるか触れないかの距離で、ネリーの頬に触れる。

 拒まれなかった。

――それが、答えだった。


二人は、静かに口づける。


誓いでも、衝動でもない。

二人だけの選択だった。。


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