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短編-3 王が見つけた男(ルーク視点)
玉座の間に足を踏み入れた瞬間、背筋が自然と伸びた。
ここは、皇国の中心だ。
子爵位を得たとはいえ、俺はまだ場違いな存在だと自覚している。
だからこそ、宰相殿から「陛下に紹介したい」と言われたとき、正直なところ戸惑いの方が大きかった。
ケイネス・セレスティア。
穏健で、民に近い王。
だが同時に、この国の価値観そのものを背負う存在。
形式的な挨拶。
短い言葉。
その場では、それ以上のものはなかった。
だが、数度の非公式な席で、王は問いを投げてきた。
それは試すようでもあり、確認するようでもあった。
――正しさは、一つでなければならないのか。
俺は慎重に言葉を選んだ。
この国を否定するつもりはなかった。
だが、世界を見てきた事実は曲げられない。
王は黙って聞いていた。
否定もしなければ、肯定もしない。
だがその沈黙に、思考の深さを感じた。
ふとした瞬間、視線が交わった。その眼差しには、期待よりも――安堵があった。
(……この方は、変えられなかったのだ)
そう理解したとき、胸の奥が静かに疼いた。
俺は、王になりたいわけではない。
だが、誰かが何かを成し遂げようとするならばそばで支えたい、そうしなければならないと思う気持ちはある。
それが覚悟と言われれば、そうだとはまだ断言できないが。




