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短編-2 王が見つけた男

ケイネス兄様からみたルークの印象についてです。

 朝議を終えた玉座の間には、いつものように静けさが戻っていた。

重臣たちが去り、磨かれた床に残るのは、柱越しに射し込む朝の光だけだ。


「陛下」


 呼び止めたのは宰相のレオンハルト・フォン・アイゼンだった。

白髪混じりのその男は、公爵位に相応しい落ち着きと、長年宮廷を見てきた者特有の慎重さを湛えている。


「少し、お時間をいただけますかな。ご紹介したい者がおります」


「紹介?」


 私は首を傾げた。

朝議の直後に、わざわざ引き合わせたい人物――それは珍しい。


「ええ。今すぐでなくとも構いませんが……今日がよろしいかと」


 宰相の目は、いつになく真剣だった。


「わかった。通してくれ」


 やがて、控えめな足音とともに、一人の青年が玉座の前に進み出た。

短く切った黒髪。

背筋の通った立ち姿。

衣装は簡素だが、手入れが行き届いている。


「ルーク・アリスターでございます。先日、子爵位を授かりました」


 宰相がそう紹介し、青年は一歩下がって頭を下げた。


「はじめまして、陛下。お目通り、恐れ入ります」


 声は落ち着いていた。媚びも、虚勢もない。


(……若いな)


 それが最初の印象だった。

爵位も低く、朝議で発言権を持つ立場ではない。

この場に立つ理由が、すぐには見えなかった。

私は形式的に二、三の言葉を交わし、その場はそれで終わった。

正直に言えば、その時点では、彼を特別に意識してはいなかった。

――だが。

 数日後、宰相を交えた非公式の席で、再び彼と話す機会があった。


「他国を見たことがある、と聞いたが」


「はい。幼少期を含め、いくつかの国を巡りました」


「この皇国と、何が一番違うと思う?」


 私の問いに、彼は少し考え、言葉を選ぶようにしてから答えた。


「……正しさの数、でしょうか」


「ほう」


「こちらでは、一つの正しさ、価値観といいますか…、それは一つに定められている。

それは秩序を保つために必要ですが……他国では、複数の価値観が併存していました」


 大胆な物言いだった。だが、挑発ではない。


「それを、どう思う?」


「混乱もあります。

争いもあります。

ですが……声を上げる者が、沈黙を強いられることはありません」


 その言葉に、私は思わず息を呑んだ。


(……皇国には、ない視点だ)


宰相が、静かに頷いているのが視界の端に映る。

それから何度か、同席する機会があった。

軍事、財政、外交。

彼は決して断定しない。

だが、問いを投げる。


「それは、本当にこの国にとって唯一の道でしょうか」


「その選択で、声を失う者はいませんか」


その問いは、誰よりも――私自身に向けられているように感じられた。


(……カインとは、正反対だ)


従兄の顔が、脳裏をよぎる。

力を示し、備えを固め、国を強くするという明確な道。

それはそれで、理にかなっている。

だが、ルーク・アリスターは違った。

彼は、力の先にある“人”そのものを見ていた。

爵位は低い。

血筋も、皇女の隣に立つには釣り合わない。

それでも――。


(実績を積めば、必ず上がる)

(宰相の後見があれば、叙爵も可能だ)


そんな考えが、自然と浮かんでいる自分に気づき、私は内心で苦笑した。

――私は、未来を見ていたのだ。

そして同時に、この男ならば、と。

もし、アリーシャが“守られるだけの存在”で終わらぬのなら。

もし、この国が変わる可能性を、わずかでも持つのなら。

その隣に立つのは、力を誇る者ではなく、問い続ける者であるべきだ。


だから――。

崖崩れの中、死を悟った瞬間。

私の口から零れた名は、迷いなく一つだった。


「……ルーク」


あの青年。

まだ何者でもない男。

だが、私がなれなかったものを、引き受けられる男。


「妹を……皇国を……頼む」


それは命令ではない。

願いでもない。

私が選び、託した、最後の――責任だった。


本当なら兄様ももっと書きたかったけど、短編として出しました。

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