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最終章-3 睨み合い

 城内では、近衛騎士団長ヴァン・クライブと、ディートリヒが王座の間を中心に警護を固めていた。

女皇アリーシャの周囲に、隙はない。


 一方、城門前――皇国正規軍の陣は、張り詰めながらも、不思議な落ち着きを保っていた。

 その中心に立つのは、正規軍総司令官アルベルト・ホランド。

大柄な体躯に、戦場を渡り歩いた者特有の粗さを纏った男だった。


「……あんたが王配殿下か」


 アルベルトは、まじまじとルークを見てから、にやりと口角を上げる。

失礼な物言いだが、不思議と許してしまう雰囲気を持っていた。


「噂は聞いてる。

近衛の連中を、まとめて叩き伏せたってな」


 周囲の兵士たちが、どっと笑う。


「総司令官、あの時の話、まだ気にしてるんですか」


「いやいや、殿下はかなりの腕前だそうですよ」


 ルークは苦笑しながら肩をすくめた。


「誇張しすぎだ。

私はただ、真剣に相手をしただけだ」


「その“真剣”が怖いんだよ」


 アルベルトは大きく笑い、ぐっと一歩踏み出す。


「なあ殿下。

一度でいい、手合わせをお願いできないか?」


 周囲がざわつく。


「総司令官と当たったら、殿下でもぶっ飛ばされますよ!」


「いや逆でしょ! 殿下、やっちゃってください!」


 完全に野次だった。

ルークは一瞬だけ考え、軽く息を吐く。


「……この戦いが終われば、いくらでもお相手しよう」


「はは! それでいい!」


 アルベルトは満足そうに頷いた。

その瞬間、見張りからの声が飛ぶ。


「――来ます!」


 地平線の向こう、砂煙。

規律の揃わぬ軍列――だが、迷いはない。

 カイン・シュバルツの軍だった。

城門前は一気に戦場の顔になる。

両陣営の布陣が整った。

正規軍は城門前に防衛線を敷き、盾と盾が噛み合う。

弓兵が配置につき、号令ひとつで矢が空を覆う距離だった。

 対するカインの軍も、陣形を崩さない。

私兵主体のはずの軍勢だが、列は整い、無駄な動きはない。

――いつ、鬨の声が上がってもおかしくない。


 だが。


時間だけが、過ぎていった。

一歩も、踏み出してこない。

正規軍の陣に、ざわめきが走る。


「……どうした?」


「攻めてこないぞ」


 弓兵が弦に指をかけたまま、動けずにいる。

槍兵も、重心を前に置いたまま、踏み出す合図を待っていた。

だが、合図は来ない。

アルベルトはじっと敵陣を睨んでいた。

眉間に、深い皺が刻まれる。


「……妙だな」


 低く、独り言のように漏れる。

本気で城門を破るつもりなら、すでに圧をかけてきているはずだ。

だが、敵は出てこない。

退きもしない。

ただ、そこに「いる」。

 ルークも、同じ違和感を覚えていた。


(攻める気がない……いや、違う)


 視線が、無意識に城の奥へ向く。


「……時間を稼いでいる」


 ルークの声は低かった。

アルベルトが、はっとして横を見る。


「陽動か!」


 その瞬間、戦場の意味が、反転した。

アルベルトはすぐに決断した。


「殿下」


 振り返り、はっきりと言う。


「ここは正規軍で抑えます。

狙いは、城内でしょう」


 ルークは、短く頷いた。


「頼めるか」


 アルベルトは、にっと歯を見せて笑う。


「殿下は中へ。――ここはお任せください!」


 城門前に、号令が響く。

正規軍は、一歩も退かない。

 ルークは馬首を返し、城内へと向かった。

その背を見送りながら、アルベルトは剣を抜く。


「さて……聖戦だか何だか知らんが」


 低く、しかし力強く。


「睨み合いと行こうか!」

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