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最終章-1 贖罪

幼い頃、ルークは母と共に、いくつもの国を渡り歩いた。

血統の正しさを誇りながら、平然と民を切り捨てる国があった。

逆に、名も持たぬ者が、責任だけを背負い続ける場所もあった。

 国の形は、実にさまざまだった。

だが、どこへ行っても、共通していることが一つだけあった。

 ――奪う者は、他者に選択を許さない。


 守ると言いながら、決めつける。

 導くと言いながら、従わせる。

 正しさを盾にして、声を奪う。


 母は、多くを語らなかった。

過去を恨むことも、誰かを糾弾することもなかった。

ただ、どんな土地でも背筋を伸ばし、自分で選んだ道を、最後まで歩いていた。

 追放された国でも。

名を奪われた場所でも。

決して、下を向かなかった。

だから――ルークは知っている。


 守るとは、真綿に包んで何事からも遠ざけることではない。

意思を奪うことでもない。

選択を尊重し、その先に、立ち続けることだと。


 それが、彼の思想の根だった。





 修道院から王城へ戻った頃には、日はすでに高く昇っていた。

城門をくぐった瞬間、ネリーが走り寄ってくる。

人目も憚らず、アリーシャの前に膝をつき、そのまま縋りついた。


「姫様……よく……ご無事で……」


 声は震え、言葉になっていなかった。

いつも背筋を伸ばし、感情を表に出さないネリーの姿とは、あまりにも違う。

その憔悴ぶりを見て、アリーシャはようやく理解した。

あの夜、城に残された者たちもまた、恐怖の中にいたのだと。


「……心配をかけましたね、ネリー」


 そう言って、そっと肩に手を置く。

それだけで、ネリーは声を殺して泣いた。

ほどなくして、報告が入る。

護衛のエリアスは、足に深い傷を負っていた。

しばらくの療養が必要だが、命に別状はないという。


 そして――アンナ。

俯いたまま、深く頭を下げ、自責の言葉を繰り返した。


「……すべて、私の責任です。

どのような処罰でも、受けます」


 震える声。

自分を責めることでしか、立っていられない様子だった。

アリーシャは、しばらく彼女を見つめてから、静かに告げる。


「アンナ。あなたを責める気はありません」


 アンナが、はっと顔を上げる。


「わたくしは……あなたが、今までどれほど献身的に仕えてくれたかを知っているわ。

今回の件で、そのすべてが否定されるはありません」


 処罰は、減俸のみ。

それ以上は命じなかった。


「……これからも、仕えなさい。

それが、あなたにできる償いです」


 アンナは唇を噛みしめ、深く頭を下げた。

アリーシャは、それを受け止める。


 情ではない。

 裁きでもない。

 女皇として下した、判断だった。

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