第五章-3 その裏で
一方、同じ夜。
王城の一角で、アンナは一人、机に向かっていた。
小さな灯りのもと、彼女は迷うように一度ペンを止め、それから静かに書き始める。
――姫様は、毎日政務に参加されています。
まだ慣れぬご様子ですが、確かに席におられます。
王配殿下は、意見を遮ることもなく、補佐に徹しておられます。
夜は……お二人同じ寝室におられます。
詳細は記すべきではないと判断いたしましたが、形式のみの関係とは、思われません。
書き終えた後、アンナはしばらくその文を見つめていた。
(……お知らせするのは、正しいことのはず)
姫様のため。
皇国のため。
そう、信じて。
手紙は封をされ、密かに運ばれていく。
*
皇都の一角、シュバルツ家の屋敷にて、カイン・シュバルツはその書状を受け取った。
灯りに照らされた文字を、ゆっくりと追う。
「……ほう」
口元に、薄く笑みが浮かぶ。
政務に座るアリーシャ。
前に出ないルーク。
同じ寝室で夜を過ごしているという報せ。
「夫婦ごっこ、か」
声音に、怒りはない。
あるのは、確信だけだ。
(…まだだ)
あれは、本当の選択ではない。
囲われているだけ。
導かれているだけ。
「……いずれ、思い出す」
誰のものであるべきかを。
誰の名を呼ぶべきかを。
屋敷の夜は冷たく、静かだった。
だがその沈黙の奥で、確かに何かが動いている。
王城では、寄り添う二人が眠りにつき、一方で、歪んだ確信が、再び息を吹き返していた。
それが、嵐の前触れであることを
――まだ、誰も知らない。




