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第五章-2 夜の帳

 王城の奥は、王族の私的空間のため人の往来は少ない。

ルークとアリーシャが寝室へ入るまでは侍従も護衛も付き従うが、あとは二人の時間だ。

ネリーは礼をした後、そっと退出する。

今日はディートリヒが扉の外で夜間の護衛にあたるようだ。

ふと、壁際の窓から外を見ると、月明かりが石床に淡く伸びている。


「お二人は中か?」


 背後からかけられた声に、振り返る。

そこには、見慣れた青年がいた。


「……ペイル卿」


「ジークでいいよ」


満面の笑みで返すが、ネリーはそっけなく返す。


「承知いたしました。ーーペイル卿」


 彼は軽く肩をすくめ、回廊の柱にもたれた。


「どうかなさいましたか」


「いや、殿下に確認をと思ったが、明日でいいか」


 しばし、沈黙。

夜の空気が、二人の間を流れる。


「……落ち着いた顔をしているな」


 ジークハルトの言葉に、ネリーは一瞬だけ目を細めた。


「そう見えますか」


「ああ。少なくとも、前よりは」


 ネリーは否定しなかった。


「不思議なものですね。

何も変わっていないようで、確かに空気が、変わっています」


「うちの主は、前に出るのがあんまり得意じゃないんだ」


 ジークハルトは、遠くを見るように言った。


「答えを待つ。

先回りしない。

……正直、面倒なやり方だ」


「だけど――」


 言葉を紡ごうとして、ふと、表情が緩む。

いつもの無表情ではない、ほんのわずかな微笑。


「――だからこそ、今、あの方の隣に立てているのだと思います」


ジークハルトはその微笑を見て、そして、何も言わずに頷いた。


「・・・そうかもな。」


「ええ」


 短い返事。

 だが、揺らぎはない。


「姫様の側には殿下がいてくださいます。

そして、私達もいます。」


 ジークハルトは笑い、すぐに声を落とした。


「……俺は、露払いでもしとこうかな。」


 ネリーは、彼を見た。


「気づかれないところで、先に払ってくださる役目も、とてもありがたいものです」


「褒めてる?」


「事実です」


 また、沈黙。

遠くで、鐘の音がひとつ鳴った。


「夜は冷える。あんたも早く戻んな」


「ええ、あなたも」


「俺は見回りでもしてくるわ」


 二人は、それぞれ別の方向へ歩き出す。

夜の回廊には、温かな静寂が残った。





 政務に追われた一日を終え、アリーシャはようやく居室へと戻る。

まだ慣れない書類の重みも、宰相たちの視線も、今は遠い。

隣にいるルークはアリーシャの提案を否定せず、でも外れない様導いてくれている。


ベッドに入れば、ルークは言葉少なに彼女を優しく包み込む。

控えめな触れ方だが、身体はすでに彼の温もりを覚えている。

それでも、心はまだ追いついていなかった。

信頼できる人だと思う。

でも、この気持ちは恋なのか、愛なのかと問われれば答えられない。


(……彼の触れ方に喜びを感じてしまう。

それが、怖い)


 知るたびに、戸惑いが生まれる。

けれど同時に、彼が決して踏み込みすぎないことも、はっきりと理解していた。

アリーシャが言葉を失えば、必ず待ってくれる。

不安げな視線を向ければ、そっと抱きしめてくれる。

それだけで、胸の奥が温かくなる。


少し、修正しました。

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