第五章-1 分たれる道
国葬を終えてからというもの政務は常に二人で行うようになった。
アリーシャは、椅子に腰掛け、書類に一つ一つ視線を落とす。
背筋は伸びているが、肩に余計な力は入っていない。
その隣に、ルークがいる。
彼は立ったままのこともあれば、彼女の横に腰を下ろすこともあった。
二人の距離は、少し変わっていた。
「この地方税の件ですが……」
アリーシャが慎重に言葉を選ぶ。
まだ声は小さいが、迷いは少ない。
ルークは、すぐには口を挟まない。
彼女の言葉が終わるまで、黙って聞く。
「……徴収時期をずらすことで、反発は抑えられるかと」
宰相が視線を向ける。
「王配殿下は、いかがお考えで?」
一瞬、沈黙。ルークは静かに答えた。
「王妃殿下の案に、私も賛成です。
補足するとすれば――」
それだけだった。
前に出ることも、誘導することもない。
あくまで、補佐としての立場。
ネリーは、その様子を黙って見ていた。
アンナもまた、無意識に視線を向けている。
(……ルーク様は姫様よりも前に出ようとなさらない)
それは、想像以上に難しいことだ。
*
ルークの侍従であるジークハルトは公の場では、常に一歩下がる。
「殿下、こちらの書類を」
「ありがとう、ジーク」
呼び方も、態度も、崩れない。
だが、執務が一区切りついた瞬間。
「……で、殿下。それ、昨日も同じ所で悩んでいましたよね」
「気づいているよ」
「じゃあ直しましょう。ほら、そこ」
砕けたやり取り。
気取らない声。
その様子に、アリーシャは思わず微笑む。
(……私に見せている印象とは違う。
幾分表情が豊かな気がする。
――二人の関係性が対等なのね)
支配でも、服従でもない。
背を預け合う関係だと感じられた。
ネリーは、その微笑を見逃さなかった。
(国葬までは、とても気を張っておられたけれど、ルーク様の隣で安心できているようだわ。)
アンナにしてみればアリーシャが自ら積極的に政務を行おうとしている、そして王配がサポートに徹している現実に、まだ戸惑いを隠しきれずにいた。
しかし、アリーシャの生き生きとした表情をみれば、受け入れざるを得ない。
それは、皇国にとって――まだ誰も見たことのない、在り方だった。




