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第五章-1 分たれる道

 国葬を終えてからというもの政務は常に二人で行うようになった。

アリーシャは、椅子に腰掛け、書類に一つ一つ視線を落とす。

背筋は伸びているが、肩に余計な力は入っていない。

その隣に、ルークがいる。

彼は立ったままのこともあれば、彼女の横に腰を下ろすこともあった。

二人の距離は、少し変わっていた。

「この地方税の件ですが……」

 アリーシャが慎重に言葉を選ぶ。

まだ声は小さいが、迷いは少ない。

ルークは、すぐには口を挟まない。

彼女の言葉が終わるまで、黙って聞く。


「……徴収時期をずらすことで、反発は抑えられるかと」


 宰相が視線を向ける。


「王配殿下は、いかがお考えで?」


 一瞬、沈黙。ルークは静かに答えた。


「王妃殿下の案に、私も賛成です。

補足するとすれば――」

 それだけだった。

前に出ることも、誘導することもない。

あくまで、補佐としての立場。

ネリーは、その様子を黙って見ていた。

アンナもまた、無意識に視線を向けている。


(……ルーク様は姫様よりも前に出ようとなさらない)


 それは、想像以上に難しいことだ。





 ルークの侍従であるジークハルトは公の場では、常に一歩下がる。


「殿下、こちらの書類を」


「ありがとう、ジーク」


 呼び方も、態度も、崩れない。

だが、執務が一区切りついた瞬間。


「……で、殿下。それ、昨日も同じ所で悩んでいましたよね」


「気づいているよ」


「じゃあ直しましょう。ほら、そこ」


 砕けたやり取り。

気取らない声。

その様子に、アリーシャは思わず微笑む。


(……私に見せている印象とは違う。

幾分表情が豊かな気がする。

――二人の関係性が対等なのね)


 支配でも、服従でもない。

背を預け合う関係だと感じられた。

ネリーは、その微笑を見逃さなかった。


(国葬までは、とても気を張っておられたけれど、ルーク様の隣で安心できているようだわ。)


アンナにしてみればアリーシャが自ら積極的に政務を行おうとしている、そして王配がサポートに徹している現実に、まだ戸惑いを隠しきれずにいた。

しかし、アリーシャの生き生きとした表情をみれば、受け入れざるを得ない。


 それは、皇国にとって――まだ誰も見たことのない、在り方だった。


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