表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/44

第四章-2 国葬に向けて

「早急に行わなければならないのは、陛下の国葬です」


宰相の言葉に、室内が静まる。


「速やかに周辺諸国の国主、ならびに主要な使節へと使者を送らねばなりません」


アリーシャは、黙って聞いていた。


「殿下には、喪主としてお立ちいただきます。

その際、弔辞を読んで頂きますが、その他調整や進行は、こちらで取り仕切ります」


宰相は視線を、ルークへと移す。

ルークは一礼し、前に出た。


「式次第、席次、警備、外交対応、その他諸々――承知しました」


だが、そこで言葉を切る。


「ただし」


ルークは、アリーシャを見た。


「殿下に関わる判断については、一つ一つ、ご説明いたします」


押し付けるでもなく、確認するような声音。


「最終的に決めていただくのは、殿下ご自身です」


アリーシャは、静かに息を吸った。迷いは、ある。

だが、退く理由はなかった。


「……わかりました」





それからは怒涛の日々だった。

王の死去と7日後に国葬の実施を知らせる文書を整え、使者を送り出す。

次に参列する賓客の確認、――王族か、全権大使か。

どの国が、どの立場で列席するのか。

その一つひとつが、序列と配置に直結する。

貴賓室の調整も急務だった。

誰をどこに通すか。

動線が交わらぬよう、護衛の配置はどうするか。

王城は一夜にして、弔いの場であり、政治の最前線へと姿を変えていった。


アリーシャは、その渦中にいた。

机の上には、見慣れぬ書類が積まれている。


 各国の名

 爵位

 称号


かつて書庫で眺めていた文字とは、重さがまるで違った。


「……これは……」


 言葉を探していると、隣でルークが静かに口を開く。


「こちらは弔意のみ。

こちらは正式参列です。

返書の文面も、微妙に変えなければなりません」


一つ、また一つ。

彼は必ず立ち止まり、説明する。


 なぜそれが必要なのか。

 なぜ順序を誤れないのか。

 なぜ、今決めねばならないのか。


アリーシャは必死に耳を傾け、頷き、書き留める。


(……わからないことだらけ)


それでも、投げ出すことはできなかった。

これは、兄の葬儀だ。

そして、自分が立つ最初の国家行事でもある。

ルークは急かさない。

――けれど、その分、彼の負担は増えていた。

通常なら、説明など不要な判断もある。

だが彼は必ず、アリーシャが理解出来るまで付き合ってくれた。

結果として、作業は倍の時間を要した。

昼と夜の境目は曖昧になり、書類は途切れることなく運び込まれる。

ふと顔を上げると、外はすでに夜だった。


「……ルーク、そろそろ…」


休憩を勧めるが、彼は書類から目を離さずに答える。


「もう少しだけ。先にこの書類を仕上げてしまいます」


その声は落ち着いていたが、目の下には、薄く影が落ちている。


(……そう言って全然休憩を取ろうとしない。

今日も朝から軽食を取る以外は休んでないわ)


慣れないアリーシャも疲労が溜まり、気づけばベッドで寝ていたこともあった。

おそらくルークが運んでくれていたのかもしれない。しかし、ルークが眠っているところは全く見ていない。

自分が休む間にも、彼は調整を続けている。


 諸侯との折衝。

 宰相との確認。

 護衛と式典の最終調整。


それでも、アリーシャの前では疲れを見せない。


「貴方に負担をかけて、…ごめんなさい」


そう言うと、ルークは一瞬だけ手を止めた。


「初めから想定内です」


淡々とした言葉たが、目元は優しかった。


「貴方はこれから一つ一つを経験していく。

私を使うこと、恐れないでいいんです」


アリーシャがその意味を理解したことを確認して、ルークは再び書類に向き直った。

こうして、一日は終わり、また次の日が始まる。

祈る暇も、悲しむ余裕もない。

あるのは、迫る期日と、積み上がる責任だけ。

それでも――国葬の日程は、瞬く間に迫っていく。

まるで、立ち止まることを許さぬように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ