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第四章-1 執務室へ

 翌朝、アリーシャはルークへ専属の侍女と護衛を紹介した。


「改めまして、私の専属侍女として仕えてくれているネリーとアンナです。」


 アリーシャは穏やかに微笑み、二人を振り返る。


「二人とも長く、わたくしを支えてくれています。

……姉のような存在です」


 ネリーは一歩前に出て、静かに一礼した。


「ネリーと申します。

今後とも、姫様――いえ、王妃殿下をお支えさせて頂きます」


 アンナも続き、柔らかな笑みを浮かべる。


「アンナでございます。

至らぬ点も多いかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 ルークは二人の前に立ち、深く頭を下げた。


「こちらこそよろしく頼む。

至らぬ点は私も同じです。

これからも力を貸してください。」


その態度に、ネリーは一瞬だけ視線を上げた。

言葉よりも先に、誠実さが伝わる。

続いて、アリーシャは護衛騎士を紹介する。


「こちらは護衛のクラウス卿とフェルナー卿です。


ディートリヒ・クラウスは、近衛騎士から先日アリーシャ専属護衛となったばかりだ。

近衛騎士の中では中堅に位置していたベテラン騎士である。

ディートリヒは無駄のない所作で頭を下げる。


「ディートリヒ・クラウスです」


エリアス・フェルナーはこれまでと変わらず護衛の任につく。


「エリアス・フェルナーです」


「よろしく。

これまで以上に王妃の守護をお願いします」


ルークは二人にも言葉をかけた。



二人で朝食をとった後、いよいよアリーシャは未知の領域へと足を踏み出す。

ルークは夫として静かにアリーシャをエスコートしながら歩いた。

そこは、これまでケイネスの空間であり、アリーシャが立ち入ることを許されなかった場所――執務室だ。


 (今日からはここが、私の立つ場所になる)


重い扉が開かれ、中へ入ると落ち着いた色調のカーテンは開かれ、陽の光が入り込んで明るい室内。

中央には応対用のソファが対で置かれ、壁には大量の本が収められている。

本棚の手前には、大きな執務机が2つ置かれている。一つは扉から正面に位置する場所に置かれたものと、それに向くようにおかれたもうひとつ。

中へ入ったのは初めてだが、至る所にまだケイネスの存在がいる気がして、胸が締め付けられる。

アリーシャはもう一つの方へ足を向けようとする。


「殿下」


ふいにルークがアリーシャの手を引き、歩みを止める。


「そちらではありません。

――主の席はこちらです」


ルークに促され、大きな机の前に立った。

訪れたものが、否応なく最初に視界に入れる位置。

その執務室の主の席である。

アリーシャは、初めて言いようのない重圧を感じた気がした。

その時、控えめなノックが響いた。


「失礼いたします」


扉を開けて入ってきたのは、落ち着いた身なりの青年だった。

一歩、室内に入った瞬間、彼の視線は無意識のうちに執務机へと向かう。

――そして、一瞬だけ、動きが止まった。

正面に立つアリーシャ。

その少し後ろ、補佐の位置に控えるルーク。

状況を理解するのに、説明は要らなかった。


「王妃殿下」


ジークハルトは膝を折り、深く頭を垂れる。


「お初お目にかかります。

ルーク様の侍従を務めております、ジークハルト・ペイルと申します。

以後は――殿下の御前にて、政務の補佐をさせていただきます」


その言葉に、ルークが静かに頷いた。


「彼は信頼できます。今日からは、彼も私についてあなさの補佐を行います」


アリーシャは小さく息を吸い、頷き返す。


「よろしくお願いします、ジークハルト」


その声は、まだ硬い。けれど――もう、逃げる場所には立っていなかった。


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