逆転の商談
明けましておめでとうございます\(^o^)/
本年もよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
昨年は、私の拙い作品を多くの方に読んでいただけ、とても幸せを感じる一年でした。
今年も少しでも多くの方に喜んでいただけるよう、頑張っていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!
広場の空気は、先ほどまでの「処刑前の緊張感」から、奇妙な「商談の熱気」へと変わっていた。
グルマン代官は、空になった重箱を名残惜しそうに見つめながら、アレクの囁きに耳を傾けている。
「……『いい話』だと? 申してみろ」
「簡単な計算です、代官様」
アレクは指を立てて、淡々と、しかし力強く説いた。
「もし後日、ここで店を潰し、売上を没収したとしましょう。手に入るのは、目の前にある小銭と、二度と作れない料理のレシピの紙切れだけ。……そして残るのは、村人たちの恨みと、冒険者ギルドへの口止め工作という面倒なリスクです」
グルマンが眉をひそめる。図星だからだ。
「ですが、私たちを生かしておけばどうでしょう?」
アレクは両手を広げ、未来を示すように語った。
「この店は、間違いなく流行ります。いえ、すでに流行っています。街道を行く旅人、商人、そして冒険者たち……彼らが落とす金は、これから雪だるま式に増えていくでしょう」
「ふむ……」
「そこで、です。代官様には、この店の『後見人』になっていただきたい」
「後見人?」
「はい。不当な没収ではなく、正規の『税』として、売上の二割を代官様に納めます。毎月、継続的に、です」
グルマンが計算高い目つきになった。
一時の略奪よりも、継続的な税収の方が、長期的には遥かに「得」になる。
「それに……もしこの店を『私が指導して育てた』として、バルト伯爵家に報告すればどうなりますか?」
アレクは、ここぞとばかりに切り札を切った。
「あの伯爵様のことです。領地の特産品としてこの『蒲焼』を献上すれば、必ずやお喜びになるでしょう。……あなたの評価はうなぎ登りだ」
「……!!」
グルマンの目が大きく見開かれた。
出世欲。金銭欲と並ぶ、彼のもう一つの急所だ。
「奪うより、育てて税を取り、さらに手柄にする方が……圧倒的に『お得』ではありませんか?」
アレクの言葉は、完璧だった。
グルマンの私利私欲を完全に満たしつつ、ハルたちの安全も確保する、悪魔的な提案。
グルマンは腕を組み、しばらく唸っていたが、やがてニタリと笑った。
「……くっくっく。お前、本当に子供か? 古狸のような口をききおって」
「商売人ですから」
「よかろう!」
グルマンは膝を叩いた。
「その提案、乗った! このグルマンが、貴様らの店の『パトロン』になってやる!」
彼は立ち上がり、高らかに宣言した。
「本日より、この『キッチン・ハルカゼ』は、私グルマンの公認店とする! 今後、他の役人やゴロツキが難癖をつけてきたら、私の名前を出せ。すべて私が追い払ってやる!」
「ありがとうございます! 代官様!」
アレクが深々と頭を下げる。
これで最強の「盾」が手に入った。
私たちが作り出した「味」が、権力さえも味方につけたのだ。
「ただし!」
グルマンは、私の前に顔を突き出し、じゅるりと唇を舐めた。
「税とは別に……私がいつ来ても、あの『特上・蒲焼重』を食わせること。いいな?」
「ふふっ。もちろんです」
私はエプロンで手を拭き、微笑んだ。
「いつでもいらしてください。さらに美味しいものを用意してお待ちしています」
「うむ。期待しているぞ。……それと、近いうちにバルト伯爵様にも献上する手はずを整える。心の準備をしておけよ?」
「え……?」
さらりと言われた言葉に、私は固まった。
「は、伯爵様に献上?」
「あの味なら、伯爵様も必ず気に入る。そうすれば、貴様らは晴れて『伯爵家御用達』だ。……励めよ」
グルマンは上機嫌でマントを翻し、黒い馬車へと戻っていった。
去り際、彼は衛兵たちに「おい、近いうちにまた来るぞ! 早くもう一度食べたい!」と叫んでいた。
完全に「ハルカゼ中毒」になったようだ。
黒い馬車が去っていくと同時に、広場には爆発的な歓声が上がった。
「やったぞー!!」
「ハルちゃんたちが勝った!」
「すげぇ! あの代官を丸め込んじまった!」
村人たちが駆け寄ってきて、私とアレクを揉みくちゃにする。
恐怖の時間は去った。
私たちは、守り抜いたのだ。
自分たちの場所を、自分たちの力で。
◇
「……おいおい。感動のフィナーレもいいが、忘れてもらっちゃ困るぜ?」
歓喜の輪の外から、野太い声がかかった。
大剣を背負った冒険者のリーダーだ。
彼は仲間たちと共に、腹を鳴らしながら、恨めしそうに厨房を睨んでいた。
「あんだけ見せつけられて、お預けはねぇだろ。……俺たちにも食わせろ」
「あ、すみません! すぐに用意を……」
私が慌てて厨房に戻ろうとすると、アレクがスッと前に出た。
「お待ちください、旦那様方」
アレクの目は、まだ「商売モード」のままギラギラと輝いていた。
「先ほどの代官様へのコース……あれは特上のナマズを使い、特別な手間をかけた『限定品』でしてね。……少々、値が張りますが?」
「はんっ。足元を見やがって」
リーダーの男は、腰の袋から一枚の硬貨を取り出し、ピンと弾いた。
夕日を受けてキラリと光る、その黄金色。
「……金貨、一人一枚(約一万円)。これでどうだ」
周囲がどよめいた。
屋台の食事一回に、金貨を出すなんて。
だが、男は不敵に笑った。
「俺はAランク冒険者のガッドだ。代官を泣かせるほどの『勝利の味』……その一番乗りになれるなら、金貨一枚なんて安いもんだ」
これが、一流の遊び心か。
あるいは、食への執着か。
「まいどあり!」
アレクが空中で金貨をパシッと掴み取った。
「ハル! お客様だ! 『特上・代官泣かせセット』、四丁!」
「名前変なことになってますけど!? ……はい、喜んで!」
私は再び包丁を握った。 代官への怒りを込めた料理ではない。
今度は、私たちを守ってくれた勇敢なヒーローたちへの、感謝の料理だ。
出てきたポタージュと蒲焼重を、ガッドたちは豪快に平らげた。
「うめぇ!」
「ダンジョンで、いいお宝を見つけられそうだぜ!」
と叫びながら。
後に、この出来事は冒険者たちの間で伝説となる。
『ノワ村の蒲焼を食べなければ、一流の冒険者とは呼べない』
そんなステータスが生まれ、世界中の猛者たちがこの味を求めて集まるようになるのだが……それはまた、少し先の話。
◇
夜。
すべてが終わり、静けさを取り戻した広場で、私たちは後片付けをしていた。
手元には、今日の売上と、ガッドたちが置いていった金貨。
そして何より、グルマン代官という強力な後ろ盾。
「……夢みたい」
私は夜空を見上げた。
ただ、生き延びるために必死だった。
ナマズを食べて、泥臭いと笑い合っていたあの日から、まだ季節ひとつ分しか経っていないのに。
私たちは、こんなにも遠くまで来てしまった。
「アレクさん」
「ん?」
「明日の朝……付き合ってもらえますか?」
「ああ。どこへでも」
彼は何も聞かずに頷いてくれた。
「両親の墓参りです。……報告しなきゃいけないことが、たくさんできましたから」
伯爵家の御用達になるかもしれない。
村が救われた。
そして何より、私たちが「最強の二人」になれたこと。
お父さん、お母さん。
私、約束を守れたよ。
春の夜風が、優しく私の頬を撫でた。
それはまるで、亡き両親が「よくやったね」と頭を撫でてくれているかのような、温かい風だった。
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