04
やはり、顔を気にするのはお暇なお貴族様だけか。
村を後にする馬車の中でスコッティにそっと話しかけた。
「領民の皆さんはあなたを心から信頼しているのですね」
スコッティは照れたように目を伏せた。
「彼らは大切な家族のようなものですから」
その言葉を聞いて改めて、この人と共に生きていきたいと強く思った。かっこいいし、気さくだし。紳士だし、完璧だ。外見だけではない彼の内面の美しさに、深く惹かれているのだと。
領内の村を訪れてから数日後。スコッティに改めてカロリィナの故郷で一般的だった、農業の技術を試してみたいと提案した。女だからと却下されないといいなぁ。
連作障害を防ぐための輪作や、土壌改良のための堆肥の作り方。効率的な水路の整備など。農業のこれからを見越して。
この世界には、まだないであろう知識を、領民たちの役に立てたいと思ったのだ。スコッティは、カロリィナの突飛な提案に最初は戸惑ったようだったが。カロリィナの熱意に根負けしたのか、試験的に小さな畑を借りて試してみることを許可してくれた。
懐の大きさも貴族だ。早速、村の農民たちにカロリィナの知る限りの農業技術を説明し始めた。最初は彼らも聞いたことのない話に戸惑っていたが実際に畑を耕し、堆肥を作って。植える様子を見るうちに徐々に興味を持つようになっていった。
「そんな風に土を混ぜるのか?」
村人が聞いてくる。
「この草は、肥料になるのか?」
彼らは、カロリィナのする一つ一つの作業に驚きと疑問の目を向けてくる。質疑応答もできるだけ分かりやすい言葉で、その理由や効果を説明した。特に、輪作の概念は彼らにとっては全く新しいものだったようだし。
同じ作物を続けて植えると、土地が痩せて収穫量が減ってしまうというカロリィナの説明に彼らは真剣な表情で耳を傾けていた。
「もし、本当に収穫量が増えるなら。試してみてぇ」
一人の老農が希望を込めた声で呟いた。
「おれも」
この試みがうまくいくかどうか正直なところ不安もあった。異世界だからだ。この世界の土壌や気候が、カロリィナの故郷と同じとは限らない。それでも、少しでも彼らの役に立ちたいという一心で畑仕事に精を出す。
スコッティもカロリィナの試みに興味を持って、時折畑に足を運んでくれた。
「やあ、頑張っていますね」
「領主様っ」
彼は農民たちに優しく声をかけ、カロリィナの説明に耳を傾けていた。
「カロリィナの知る異国ではこのような方法が一般的だったのですね」
カロリィナの育てた作物の苗を興味深そうに観察しながら、言った。ドキッとなる。
「ええ。もちろん、地域によって違いはありますが基本的な考え方は同じです」
スコッティの理解と関心は大きな励みになった。バレてないのでヨシ。
数ヶ月後、試験的に植えた作物が少しずつ実を結び始めた。輪作をした畑の作物は以前よりも生育が良いように見えたし、堆肥を使った土はふかふかとして作物の根張りが良くなっている。
収穫の時期を迎えた。農民たちが、恐る恐る作物を収穫してみるとその収穫量は彼らが予想していたよりも、ずっと多かったことが目に見えてわかる。
「これは!本当にたくさん採れたぞ!」
「土も前よりずっと柔らかい!」
彼らの顔には満面の笑顔が広がった。カロリィナの提案を受け入れ、共に試行錯誤してくれた彼らの努力が実を結んだのだ。
「領主夫人と領主様のおかげだ!」
村ではささやかな祝祭が開かれた。スコッティも村を訪れ、農民たちの喜びを分かち合う。めちゃくちゃ歓迎を受けて、目を丸くする妻に夫は笑った。
「カロリィナ、あなたは素晴らしい才能を持っているのですね」
夜、屋敷に戻ってから、スコッティはしみじみとした口調で言った。
「わたし一人の力ではありません。皆さんが話を聞き、協力してくれたからです。取れなかった可能性だって、あったのに」
そう答えたけれど、彼の言葉はカロリィナの心に温かいものを灯してくれた。
「いえ、あなたのおかげだ。ありがとう。鉱山もどうやら枯れ切っていないという可能性が浮上してきました」
この異世界でただの公爵夫人としてではなく、人の役に立つことができる存在になったのだ。周りの生活を少しでも豊かにできるなら、こんなに嬉しいことはない。
「愛してます」
「私を?」
何よりも嬉しかったのはカロリィナの行動を通して、スコッティとの間に新たな信頼と絆が生まれたこと。
「ええ」
「う、嬉しいです。スコッティ様のお顔が私は好みなので」
彼はカロリィナの言葉に耳を傾け、その力を信じてくれた。そのことがカロリィナの心を深く満たす。
「私の顔が?」
「はい!とても!」
これからもこの世界でできることを探していきたい。スコッティと共に。
「そ、そうですか。あなたが正直なのはもう知ってますが。それでもそう言ってもらえるとは夢のようですね」
スコッティはカロリィナを抱き寄せて、胸元へと許す。
「キスしても?」
「夫婦なのですから、あなたはしてもいいんですよ?ふふ。あなただけの、あなたにだけ許される場所ですから」
夫は顔を赤く染めながら慣れない口付けをそっとまぶす。可愛くて笑みをこぼすとお返しに男らしい首を腕で引き寄せて、深く返した。
「カ、カロリィナ!?」
「私の夫なのですから、許されるのですよ?」
目元をとろんとさせた、男の赤くなった目の下を優しく撫でた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。美醜逆転好きです




