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03

 もしかして、彼の親族に無礼な態度をとってしまったのが不味かったのかもしれない。


(妻を首になる?)


 スコッティはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。むしろ。感謝しています」


 驚いて顔を上げた。


「え?感謝、ですか?」


 首を捻る。


「ええ。あなたはわたしのことを、ありのままに見てくれた。はっきりと示してくれた」


 照れたように視線を逸らした。実際に照れているのだろう。


「世間の評価などわたしも気にしないと言いましたが。やはり、違います。気にならないと言えば嘘になります。特に、この容姿については幼い頃から様々なことを言われてきましたから」


 彼の言葉は静かだけれど、どこか痛みを帯びているように聞こえた。なんと不憫な人だろう。


「けれど、あなたは。違うのですね」


 ゆっくりと彼の手に触れた。彼の大きな手が少しだけ震えている。


「ええ、スコッティ様。あなたの外見はほんの一つの要素に過ぎません。それよりも、あなたの内面の深さや優しさ、知性に心惹かれています」


 カロリィナの言葉にスコッティは深く目を閉じる。ゆっくりと再び開けた。


「夫があなたでよかった」


 男からはこれまで見たことのないような、喜びに溢れた温かい光がある。


「ありがとう、カロリィナ」


 その夜から二人の間に目に見えないけれど、確かに温かい縁が生まれたような気がした。本音で語り合ったということもあるかもしれない。彼のことをもっと深く知りたいと、心から思った。


 それから数週間、公爵夫人としての生活に少しずつ慣れていった。


「ふふふ、貴族の力を最大限に使い切った!」


 ついでに、我が家を舐めていた茶会の参加者の態度について各家に抗議文を出しておいたので、今頃参加した夫人達は怒られていると思う。スコッティは相変わらず寡黙ではあるけれど、以前よりも気さくに話しかけてくれるようになった。

 彼の話す内容は政治や経済、歴史など多岐にわたり、知的好奇心を刺激されることばかりだ。


「ジャムを作りたいのですが」


「ジャムですか?」


 現代の教育を受けていたおかげで、なんとか話題に乗れている。


「甘いものがお好きなら、毎日パンに塗れます」


「それはいいですね」


 ある夜、書斎で二人で過ごしていた時のことだ。スコッティは古文書を読み解きながら、その内容を分かりやすく説明してくれた。難しい専門用語も、彼にかかればまるで物語のように面白く聞こえる。でも、眠くなるのは本能かな〜。


「この記述によれば、我が家が代々守ってきたこの土地は、かつて豊かな鉱山があったようです」


 彼は、古びた羊皮紙を指さしながら言った。


「鉱山、ですか?」


 目が冴えた。


「ええ。しかし、今は枯渇してしまっているとされています。もし、再び鉱脈が見つかればこの領地はさらに発展するでしょう」


 どこかで聞いたことがある逸話だ。スコッティの瞳がかすかに熱を帯びた。埋蔵金みたい。領地の発展を真剣に考えている姿はとても魅力的。


「何か、手がかりはあるのですか?」


 試しに尋ねると彼は少し考えてから言った。


「わずかに残された記録と、この土地に残る古い言い伝えだけです。しかし」


 彼は窓の外の暗闇を見つめた。


「諦めるつもりはありません」


 その強い眼差しに心を打たれた。何か彼の役に立ちたい。そう思った。キュンとする。


「わたしに、何かできることはありますか?」


 カロリィナの問いかけに、スコッティは少し驚いたように振り返った。思ってもなかったのか。


「あなたに、ですか?」


 そうだが、なにか?


「ええ。もし、何か手がかりになりそうな古い書物や言い伝えがあればわたしも一緒に探したいです」


 カロリィナの言葉に彼はしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。その手のロマンは女性も好きだ。


「ありがとうございます、カロリィナ。もしよろしければ力を貸していただけると、心強いです」


 それから、二人で屋敷の古い書庫や領地に伝わる古文書などを調べるようになった。メイドは屋敷の管理で手が空いてない。埃っぽい書物に囲まれながら、二人で頭を寄せ合って解読していく時間はかけがえのないものだった。

 楽しい。スコッティは前世で得た知識や現代的な視点に時折驚きながらも、真剣に耳を傾けてくれた。


 口も軽くなる。例えば、鉱山の採掘方法に関する古い記述について話し合った時。前世で読んだ、鉱業に関する本の内容を思い出し、彼に話してみた。得意げになって。


「坑道の換気や安全管理は、昔も重要な課題だったのですね」


 カロリィナの言葉にスコッティは、感心したように頷いた。


「なるほど。異国の知識は時に我々の盲点を突くことがあるのですね」


 異国だと誤魔化して事なきを得ている。共に過ごす時間が増えるにつれて、スコッティの新たな一面を知るようになった。結構、男の子らしいといったわんぱくさ。

 普段は冷静で厳格な彼が、時折見せる穏やかな笑顔。冗談めいた言葉。領民たちのことを真剣に考え、心を痛める優しさ。できた領主。それらは全て、彼の魅力となって、カロリィナの心を深く惹きつけていった。


 ある日、領内の古い村を二人で訪れた時のこと。かなり議題に上っている。


「では、不作を避けるために連作をやめるよう周知させます」


 作物が不作で困っている農民たちにスコッティは自ら声をかけ、今後の対策について話し合っていた。


「お願いします」


 その真摯な姿に村人たちは皆、期待に満ちた表情をしていた。

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