最悪のチーム
気まずい沈黙。
駅前の銅像の前で、互いにスマホを握りしめたまま、西代と雪空は目をそらし合っていた。
「……つまり、お前が“雪空”?」
「そっちこそ、“トタ”でしょ。はぁ……最悪」
二人の声には、驚きよりも怒りと裏切りがにじんでいた。
「女アバター使って騙してんじゃねえよ!」
「そっちだって! あんな優しそうな話し方してたくせに、現実じゃ口悪すぎ!」
「うるせぇ!」
「そっちこそ!」
交差点の時より激しい火花が飛び散る。
だが——互いに「嫌い」と思いつつも、どこかで気づいていた。
(……話してると、テンポが合うのがムカつく。)
***
結局、口喧嘩の勢いのまま「もういい、買い物行くぞ」となり、二人はパソコンショップに向かった。
目的は西代の新PC選び。だが、道中も空気は最悪だ。
「CPUは何にするつもり?」
「え、わかんね。安くて強いの」
「……“安くて強い”とか言うやつ、だいたいパーツ燃やすタイプ」
「お前どんな偏見だよ!」
「偏見じゃなくて統計」
「うぜぇ……」
雪空は淡々と専門用語を並べ、西代は半分も理解できず相槌だけ打つ。
そのくせ、どちらも負けず嫌いで、譲らない。
「グラボは絶対3060以上。下は論外」
「なんだよその数字信仰。宗教か?」
「“知識ないくせに反論だけするタイプ”が一番嫌い」
「そっちこそ人の気持ち考えたことあんの?」
「ない」
「正直でムカつく!」
店員が苦笑するほどの口論を続けながらも、
最終的に二人はそこそこ良い構成でPCを選び終えた。
支払いを済ませたあと、沈黙。
気まずさとイライラが入り混じった空気。
「……じゃ、帰るか」
「うん。二度と会うことないだろうけど」
その瞬間——雪空のスマホが震えた。
『もしもし! 田尾さんですか!? ゲームイベントの時間、今日の夜ですよ!』
「……は?」
雪空の表情が固まる。
隣で西代も同時にスマホを見て、同じ通知を確認した。
「おいおい……まさか、あの“ペア参加”の大会……」
「うそ……あれ、応募したままだったの!?」
二人、同時に天を仰ぐ。
「……行く?」
「行かない理由は……景品」
「同じこと考えてんじゃねえよ」
そして、二人は渋々、会場へ向かった。
***
チームエントリー
受付でスタッフが声をかける。
「チーム名とメンバー名、お願いします」
田尾がため息をつきながらタブレットを操作する。
「……本名、入力ね。田尾祐樹」
「……西代楓」
エントリーフォームに表示された文字列は、まるで悪ふざけのようだった。
チーム名:トタと雪空
メンバー:西代楓・田尾祐樹
「……ダッサ」
「いや、お前がつけたんだろ」
「“雪空”って名前、封印したいんだけど」
「俺だって“トタ”名乗るの黒歴史だから」
互いに文句を言いながらも、結局そのまま登録を終えた。
***
第1ステージ:カート乱戦レーサーズ対決
*キャラクターを操作してコースを走り抜けるレースゲーム。
全20チーム。
スタートの合図が鳴る。
「いっけぇぇぇ!」
西代はトップを独走。田尾もそのすぐ後ろ。
「まあまあやるじゃん」
「そっちこそ」
息の合った走り——と思いきや、
西代の指が不穏に動く。
「おい、まさか——」
「くらえ、赤甲羅ぁぁ!!」
——ドガァン!!
「バッカじゃないの!? 同じチームでしょ!?」
「反射神経テストだよ!」
「どんなテストよ!」
怒った田尾も青甲羅で反撃。
以降、互いを狙い撃ちする“仁義なきレース”が始まった。
結果、2人とも最下位近くまで転落。
「なにやってんの!?」
「お前が先に撃ったんだろ!」
「先に煽ったのはそっち!」
「黙れ、雪空!」
「その名前で呼ぶな!!」
必死のリカバリーも虚しく、
田尾9位・西代10位。
二人とも、顔面が引きつる。
「……終わった」
「お前のせいだろ」
「は?お前がトチったんでしょ!」
が、その時、アナウンスが入る。
『上位チームのうち、同じチームの二人がどちらも8位以内に入ったため、次点チームが繰り上がり進出です!』
モニターに映る名前——チーム:トタと雪空 進出。
「…………」
「…………」
二人、同時にため息。
「……運だけかよ」
「それでもお前よりマシだ」
「なんだと?」
「もう黙れ、トタ」
「お前もだ、雪空」
***
第2ステージ:オールスター・メレーバトル対決
*複数のプレイヤーがステージ上で戦い、相手を場外に吹き飛ばすアクションバトル。
2対2のトーナメント戦。
最初のラウンドでは、西代:残機3、田尾:2。難なく勝利。
次の対戦。
序盤は互角——だが、田尾の動きがどんどん硬くなる。
「おい、どうした!」
「うるさい……リアルの対戦とか、慣れてないだけ……!」
次々に攻撃を受け、田尾は脱落。残機0。
画面の端で、倒れたアバターが消える。
「はぁ……足引っ張んなよ」
「誰のせいで動揺してると思ってんのよ……!」
残るは西代ひとり。敵は2人。
西代は深く息を吸った。
「見とけ、バカ雪空」
そこからの展開は、まるで別人。
冷静な立ち回り、絶妙な反撃、ギリギリでの復帰。
観客がどよめく。
そして——最後のスマッシュが決まる。
『GAME SET!』
勝利の瞬間、会場がどよめいた。
田尾は口を開けたまま。
「……本気出したら、こんなもん」
「うざ……でも、ありがと」
「お、素直じゃん?」
「調子乗んな」
互いにそっぽを向きながら、わずかに笑う。
だが、それすら腹が立つ。
「なんか、笑ってんのムカつく」
「お前がムカつく顔してるからだよ」
「帰れ」
「お前がな」
***
休憩時間。
二人はペットボトルを手に、モニターに映る次の対戦表を見つめた。
「次……Aブロックの優勝チーム、“双子プレイヤー”か」
「やば。前回優勝組じゃん」
「しかも次のゲーム、“クック&サーブ・ラッシュ”のVersusモード……」
*2人で協力しながら、制限時間内に料理をたくさん作って提供するゲーム。
二人の間に、沈黙。
それは恐怖と、少しのワクワクが混じった沈黙だった。
「……協力ゲーとか、俺らに一番向いてねぇじゃん」
「だね。でも——勝つよ」
田尾の小さな声に、西代はため息をつきながらも、
口の端がほんの少しだけ上がった。
——最悪のチーム。
それでも、なぜか息だけは、少しずつ合い始めていた。




