交差点クラッシュ
春。始業式の朝。
VR高校2年・**西代 楓**は、絶望的に遅刻していた。
西代「うわ、マジで終わった……!」
夜更かしの原因は、最近ハマってる“新しい刺激探し”。
新作のVRゲームを探して、夜の3時までネットを漁っていたツケだ。
ネクタイをつけながら走る。髪ボサボサ。靴ひも、途中でほどけてる。
——と、交差点の信号が赤に変わる瞬間。
西代「やっば……!」
ダッシュ。
そして。
ガシャァァァァン!!
正面から、何か、いや、誰かにぶつかった。
倒れそうになる西代の目に映ったのは、背中に——いや、“背負って”いる——デスクトップパソコンの本体。
そう、リュックじゃない。
金属の筐体むき出し、ケーブル類がぶら下がったままの状態で背負っている。
どう見ても不審者である。
男「お、おい!なにしてくれてんだよ!」
西代「はあ!?こっちのセリフだわ!!なんでパソコン背負ってんだよ変態かよ!」
男「変態!?機材背負うのが変態なら、世の中のエンジニア全員犯罪者だぞ!?」
口論。完全に朝から修羅場。
ただ、焦りの中で時計を見る。
西代「……あ、やば、遅刻確定だ……!」
西代は男を置いてダッシュした。
後ろから「弁償しろよ!!!」という怒号が聞こえたが、もうどうでもよかった。
***
先生「——西代君ねぇ……もう二年だよ?自覚持ちなさい」
ホームルーム後、担任の説教30分コース。
机に突っ伏したまま、西代は心の中でため息をつく。
(最悪の新学期スタート……)
放課後、教室を出ようとしたその時。
泳川「なあ、朝ぶつかったって聞いたけど、大丈夫か?」
声をかけてきたのはクラスの泳川聡。
爽やかで誰にでも優しく、女子からの人気も高い。
まぶしいほど“いいやつ”だ。
西代「ああ、なんか変な男とぶつかってパソコン壊したとか言われた。知らね」
泳川「おまえ……トラブルメーカーだなあ」
笑いながらも、泳川は少し心配そうに言う。
泳川「でも、まあ元気そうでよかったよ。
……そういえば、隣のクラスにさ、不登校で留年してるやつがいるらしいんだ。
去年もずっと来てなかったみたいで。
同じくらいの歳なのに、なんか環境が全然違うよなって思ってさ」
西代「へぇ……」
西代は興味なさげに返す。
(不登校とか留年とか、正直関わりたくないタイプだ)
泳川「まあでも、最近はバイトしてるらしいよ。ハンバーグ屋で。
学校来れないけど、外では頑張ってるっぽい」
西代「ふーん。頑張ってるならいいじゃん」
泳川「お前もさ、もうちょい周りのことに興味持とうぜ? もったいねーぞ?」
西代「……別にいいだろ、俺は俺で」
話を切るように、西代は立ち上がった。
そして思いついたように言う。
西代「なあ泳川、最近なんか面白いゲームない?
なんか刺激足りねえんだよな、リアル」
泳川「ははっ、やっぱりな。
じゃあ『VRChat』やってみろよ。人付き合いとか世界とか、リアルとは全然違うぞ」
その一言に、西代の目が少し輝いた。
***
夜。
自室のパソコンを立ち上げながら、つぶやく。
西代「……VRChat、ね。やるだけやってみるか」
女の子アバターを選び、名前は——「トタ」。
(男アバターはなんか堅苦しいし。ちょっとした遊び心だ。)
ログインすると、カラフルな世界が広がっていた。
右も左もわからないまま、立ち尽くす。
そんなとき——
???「……あの、初めてですか?」
振り返ると、やわらかな声。
女性アバターが立っていた。名前は雪空。
トタ「え、あ、まぁ……うん」
雪空「じゃあ案内しますね。ここ、最初は迷いますから」
彼女はとても優しく、丁寧に教えてくれた。
VR空間のこと、フレンド登録のこと、アバターの表情の出し方まで。
現実では感じたことのない、安心感がそこにあった。
その日から、西代はVRChatにのめりこんでいった。
***
毎日のように話すうちに、
雪空がうつ病で、現実では不登校気味だと知る。
けれど、VRの中ではとても明るく笑う。
——その笑顔を見ていると、つい口が動いていた。
トタ「じゃあさ、今度の日曜……外に出る練習、してみようよ」
雪空「え? えっと、それは……」
トタ「俺、PC新しいの欲しくてさ。詳しいって言ってたろ?一緒に選んでよ」
雪空は少し迷ったが、小さくうなずいた。
雪空「……うん。やってみる」
***
日曜の朝。
西代は集合場所の駅前に少し早く着いた。
周りを見回していると——
西代「……は?」
そこにいたのは、あの“デスクトップ背負い男”。
西代「お前、なんでここに……」
男「は?俺のセリフだよ。待ち合わせなんだよ!」
西代「こっちもだ!」
再び火花を散らす二人。
気まずい沈黙の中、スマホが震えた。
雪空からのメッセージ。
雪空『ごめん、少し迷っちゃって。銅像の前に行きます!』
西代が顔を上げると、男もスマホを見ていた。
そして、同時に足が銅像の方向へ向かう。
西代「……え、なんでお前も?」
男「は?なんで“お前”も?」
そこには——また、二人。
銅像の前 → 噴水の前 → パン屋前 → 自販機横。
なぜか毎回同じ場所に現れる“待ち人”。
もうコントのようだった。
西代「おい……まさかお前、GPS仕込んでんのか?」
男「んなわけねーだろ!」
焦れた西代が叫ぶ。
西代「もう!これから雪空さんと予定があるのに!!」
ピタリ、と男の動きが止まった。
目を見開き、ぽつりと呟く。
男「……え、なんでその名前を……?」
二人、沈黙。
次の瞬間、ハモる。
2人「……まさか、雪空さん!?」
周囲のカラスが飛び立つ音だけが響いた。
——VRでは惹かれ合い、現実では最悪の関係。
すれ違いの始まりは、交差点でのクラッシュから。




