魔法の使い方
「とりあえず。うーん、そこそこ広いとこ行こうか。今魔法打つと洞窟崩れちゃうかもだし」
ちあきはこちらに手を差し伸べてくる。
「ほら、早く行くよ。手掴んで。私結構早いからしっかり握っててね」
なぜか恋人繋ぎ。心がドキドキする所存です。やばい。前世だと女の子関係はボロボロだったから凄く心臓が跳ねる。
「さっきはアケボシ君が来るかもしれなかったから使っていなかったんだけど、この世界には魔法以外にスキルってのがあるの。行くよ」
【加速】
瞬間音を置き去りにするほどの速さでちあきが走り出した。
「待って、死ぬ。死ぬぅ。手ちぎれる。待っでぇ!」
「しっかり握っててね! 死ぬよ!」
死ぬ。速すぎる。この世界の人間ってみんなこのレベルなのか。物理法則とかどうなってるんだろう。なんかクラクラしてきた。吐き気もする。
「あ、ここらへんよさそう。アケボシ君? あれ、アケボシ君。 死んでる?! 起きて起きて!」
「はっ! 生きてる……? 生きてる!」
「良かった。今のはスキルっていうの。また今度スキルについては教えるからとりあえずここで魔法を教えてあげます!」
「まず心を落ち着かせます。そして文字が浮かんでくるでしょ。それを気合入れて読む! んにゃー! って!」
と可愛い仕草で教えてくる。小動物みたいだ。
「お手本見せるね! んっ!」
ちあきは目を閉じて集中している。周りには何か青色の気配?が見える気がする。
《ウォタラ》
そう声を発した瞬間ちあきの手のひらから水の球が発射された。その後壁に当たり消失した。
「はぇ!? す、すげぇ、これが魔法。お、俺もやってみる」
正直魔法使えるかは分からない。説明聞いても全くよく分からない。まずは心を落ち着かせて、なんか見えてきた気がする。しかしもやがかかっていよく見えない。ちあきの方をみるとよくわからない踊りでめちゃくちゃ応援してくれてる。そのおかげか緊張がほぐれたのだろう。
見えた。
《ガイアード》
瞬間巨大な土の塊が前方に飛び出てきた。
「で、きた……? できた!! 俺すごくね! え! やばくね!!」
興奮で語彙力が下がる。
「え……? えぇえ? 上級魔法じゃん! 本当に初めて魔法使ったの? え……? Sランククラスじゃん! 凄いよ!」
ちあきは驚きつつもめちゃくちゃ褒めてくれる。この世界だと俺はわりと強い方なのか。転生最高と思いつつも、体の違和感に気づく。魔法を撃ったあとすぐにめまいがした。それに吐き気もする。気持ち悪い。
「あ、そうだ! 言うの忘れてたんだけど、魔法とか使うと精神とか身体に負担かかるからでかい魔法は連発できないから気をつけてね!」
にこやかにちあきは魔法について補足したのだ。
____
「先に言えよ! めまいでくらくらしたじゃないか!」
と少し強めに注意する。しかし思っていたより凄い威力が出ていた。体の調子を考えると打てるのは3回で限界そうだ。
「どう? 凄いでしょ魔法! アケボシ君は私よりセンスありそうだから、この先に進んでもなんとかなりそうだね! でもなんかあったら私を頼ってよね! 私のほうが魔法慣れしてるから!」
飛び跳ねながら話してくる。可愛いのは良いことだが少し抜けている。
「そういえば、転移魔法とやら使えるんだろ、それで奥まで一気にいけないのか?」
「うーん、魔法は使う人によってだいぶ能力差があるの」
「そうなんだ。 チアキはどんくらい使えるの?」
「私の場合は大体500メートル以内のとこしか行けない。あと私は一人だけしか転移させることができないから、アケボシ君は真っ先に逃げてね。私は転移して逃げるから!」
チアキは転移魔法について説明してくれた。話を聞いた感じだいぶ人によって変わりそうな魔法だ。
「わりと魔法もむずいんだな。分かった。なんかあったらすぐ逃げるよ。でもチアキも無理しないようにしなよ。」
「うん! あっちに着いたらラブちゃんもお兄ちゃんもいるから大丈夫。きっと、大丈夫!」
チアキは少し俯きながら大丈夫と繰り返し言葉にしている。本当は心配なんだろう。どう声をかけたらいいのだろう。兄妹のことはよくわからない。でもとても仲のいい兄妹なんだろう___
そういえば、俺にも兄はいたらしい。流産で亡くなったそうだが。確か名前は流星。母親に対して申し訳なさが残る。でも、もうあの世界には戻れない。そもそも戻り方が分からない。
流産で兄が死んで20年後に自分も。祖母はもういない。祖父も10年前から行方不明。父は病気で入院している。残されたのは母親だけ。
結局親孝行もできなかった。
「アケボシくん? どうして泣いているの?」
「なんにもない。昔のことを思い出しただけだよ」
きっと大丈夫。母さんは元気でやっていけるだろう。大丈夫。そう自分にいい聞かせていると突然柔らかい感触がした。
「大丈夫。アケボシ君は一人じゃないよ。私がいるから。大丈夫」
大丈夫。そうやって声をかけてくれる彼女がいるから。
____
「落ち着いた? 少し休憩しようか。お腹すいたでしょ。はい! これおにぎり。ダインさんが作ったおにぎりだからおいしくて元気出るよ!」
「さっきカインさんからもらったから大丈夫! いただきま〜す!」
先ほどもらったおにぎりを口にほおばる。この世界に来て初めての食事だ。かなり塩が効いていておいしい。具はカタツムリのようなよく分からない軟体生物だ。コリコリしていておいしい。
「そういえばこの先にいるのは星ってやつなんだよね?それってどういうやつなの?」
「えとね、水金地火木土の器ってのと天冥海の魔王がいるの!まぁそんなに気にしなくていいよ!それぞれが使う属性がそんな感じって感じの感じなの、そんな感じてきな」
太陽系の惑星……? この世界はところどころ元の世界と似てる気がする。バカな俺にはよく分からないが。
「よくわからないと思うけどとりあえずめちゃくちゃ強いの。でね! 私のお兄ちゃんは天の力を持ってるスターランクなんだよ!すごいでしょ!」
「天の力をもっている? 倒したら相手の力が手に入る的なことって認識でいい? 」
「うん! スターランクっていうのはね、星の力、さっき私が使った【加速】ってのあったでしょ。それみたいな感じで星固有のスキルが使えるようになるの」
「星の力が使えるからスターランクってことね!」
「あと、これみて。スターマップっていうんだけど、星をマップに映してくれるの。ここの洞窟今いる場所なんだけど光ってるでしょ」
「これが星のいる場所? スターランクも光るってこと? 」
「うん。スターランクになるとこのスターマップに載るの。でもどの星かは分からない! これを見て討伐作戦とか決めたりしてるの。で、今回ここに急に光が出てきたから来たの。誰かが封印を解いたんだと思う」
「封印……? 魔王とかの?」
「魔王はもういないよ。天冥は倒されてて、海は封印されてるよ。でね、不思議なんだけど冥の力の行方が分からないの」
正直一気には覚えられない。歴史の授業を聞いてる気分だ。先生が可愛いからまだいいが、最初に会ったのがおじいちゃんとかだったら、寝てる気がする。
「なんか難しい話だね。とりあえずお兄さんが天を討伐したってことだよね。じゃあ安心だね! そんなに強いなら大丈夫だよ!」
「私もお兄ちゃんのことは信用してる。でも、嫌な予感がしたの……」
「とりあえず早く行かないとな。みんなで帰ろう。信じる気持ちが大事だよ。チアキがさっき言ってくれたでしょ。大丈夫って! ならきっと大丈夫だよ! 」
そう励ますことしかできなかった。
____
しばらく無言で歩く。実際ランクとかよく分からない。どのくらい『星』が強いのかも分からない。だから、気まずい空気の中チアキに聞いてみることにした。
「あのさ、ランクってどんな感じなの? 教えてほしい」
「あ、ランクのこと教えてなかったね。E、D、C、B、A、S、SS、SSS、ゴッド、スターランクがあるよ、それぞれのランクの間にはかなり壁があるよ、でも、ゴッドランクとスターランクは別だけどね」
「お兄さんはこの世界だとどのくらい強いの?一応最上位のランクってことだよね 」
「ゴッドランクにも強い人がいる。ラブちゃんとかカルロスさんとか。だから一番かどうかは分からないけどお兄ちゃんはこの世界で上位5人以内に入ると思う」
ゴッドランクとスターランクの違いは実力として強いか、スキルが強いかの違いだろう。星を倒せばスターランクになれるとしたらスターランクの人間もかなり強いはずだ。
「ないとは思うんだけどね、もし、お兄ちゃんが…… ハルトが死んでたらどうしよう。ラブちゃんもいるし、大丈夫だと思うんだけどね…… 」
不安げな顔でこちらを見てくる。チアキの兄が死んでいた場合自分に何ができるのだろう。壁になる事は本当にできるのだろうか。そもそも自分はSランク程度の魔法が使える。相手はスターランク。ランクの差がどこまであるかは分からないが、ほぼ星に負けるだろう。せめて、チアキだけでも守れれば。
「もし、この先に誰もいなかったら、きっと無事に逃げたと思おう。もし、この先にお兄さんとラブさんがいたらみんなで帰ろう」
「うん」
「んで、もし、この先に『星』がいたら俺が時間稼ぎをする。その間に転移魔法でチアキは逃げてくれ。何も考えずに」
「それって、死ぬってこと……?」
ゆっくり息を吸ってチアキは口を大きく開く。
「バカにしないでよ。私だって騎士なんだよ……! 見捨てて逃るなんて、できるわけないじゃない」
「生きてほしい。もし星に会ったらどうにもできない。せめてチアキだけでも生きてほしい」
それは懇願だった。何もできない自分を情けなく思う。力のない自分に出来ることが時間稼ぎしか考えられない。そもそもできるかも分からない。それだけ無謀な戦いだ。この世界で初めて会って好きになった彼女に生きてほしい。自分はもう一度死んでる人間だから。
「生きてほしい。おれが死んでも笑っててほしい」
「無理だよ」そう小さくこぼした彼女は今にも泣きそうだ。
お互い目を逸らしながら進んでいると扉が見えた。
「でかい扉だな」
入ったらもう戻れない。現実を受け止めるしかない。それがどれだけ認めたくない現実だとしても。
「入ったらもう引き返せないよ。アケボシ君逃げていいんだよ。これは私たちの戦いだし」
「何があっても君を守る。大丈夫。みんなで帰ろう」
そうして扉を開けたのだった。
____
扉が開いた。その瞬間火球が飛んでくる。チアキに飛びつき咄嗟に避けようとするが腕に直撃した。
「アケボシ君! 今回復するから」
「え……」とチアキが小さな声でつぶやき回復をしようとしていた手が止まる。ふと自分の右腕を見ると、肩から黒く焦げ一部の肉が溶け出している。そして遅れて痛みが来る。
「痛い、熱い。熱い。熱い……」
痛みに悶えていると火球が飛んできた方から声がした。
「あ゙、てめぇ゙……? アースか?」
声がした方を見ると燃えるような猿がいた。いや実際燃えている。
「なぜとなりに騎士がい゙る? 」
「どうしよう、この怪我。私じゃ治せない」
「アース、裏切ったのか?答え゙ろよ…… 」
周りの空気が静まり返るような殺気。視界は熱気でぼやけ腕は負傷していて力が入らない。痛みで思考が止まりそうだ。
「い゙くら親友でもよ…… 超えたらい゙けない゙ライ゙ンってものがあ゙るだろ? 」
《マグナード》
再び火球が飛んでくる。咄嗟の判断で魔法を繰り出す。
《ガイアード》
「あ゙……? てめぇ゙、誰だ? 」
相手からの火球を魔法で防ぐ。腕から血が止まらない。もう死ぬだろう。
「なんでさっきから無視するんだ? 」
無視をしてるつもりはない。戦闘中に会話なんてできない。余裕がない。避けることに集中するしかない。思考を巡らせていると火の玉が無数に浮き出てこちらに向かって飛んでくる。
《ウォタラ》
チアキが魔法を唱えた。一部の玉は防げるしかし、数が多く全ては受け止めきれない。
「チアキ…… 逃げろ」
「言い゙のこすことはそれだけか…… 」
《リライフ》
光で体が覆われる。腕の傷が癒えていく。
「そこの女。お゙まえ゙によゔはない゙。邪魔するなら殺す。逃げるなら今のゔちだ。これは情とかじゃない゙。無駄に殺す主義はない゙」
「私は六番隊所属騎士 チアキ・ブレード! 騎士として仲間を見捨てて逃げることはできない!あと、ハルトは…… お兄ちゃんたちをどこにやったの!」
「俺はマーズ、『火の星』 だ。勇者の妹か、残念だがお゙前の兄は死んだぞ。ラヴィルを最後に転移で逃がしてな。殺したのは魔王だ。恨むなら勇者になった兄を恨め。戦ゔことしかできない゙この世界を恨め」___
「やってとでたが。外は雨だっしゃなチアキ達無事にやったるだっしょかぬ」
と外に出たカインは仲間の無事を祈っていたのだった。
____
お兄ちゃんが死んだ。
私の大好きなお兄ちゃん。ずっと側にいたお兄ちゃん。みんなにとって憧れだった。
でも今はそんなことを考えてる時間はない。足元には私が回復して命を繋いでる人がいる。私のことを好きって言ってた。目の前にはマーズと名乗る『星』がいる。昔、私が生まれるより前にお父さんが倒した。
転移して逃げる。戦っても勝ち目はない。
騎士として死ぬ。この人を見捨てることになる。
私はどうすれば。
「俺が用があ゙るのはアースだけだ。逃げるなら勝手にしろ。どっちみちこい゙つは死ぬ」
「逃げろ、チアキ。俺はチアキが無事ならそれでいい。頼む」
「お兄ちゃんは命を張って戦った。私が逃げたら他の騎士たちに会わせる顔がないよ……」
「死ぬ覚悟はできたんだな。思ったより騎士隊ってのは下っ端でも根性あ゙るんだな。なら見せてやるよ。俺のとってお゙きをよ」
世界が燃える。そんな感覚。私にはよく分からない。たぶん私死ぬ。でも騎士として最後まで誇りを持って死ねるなら、それでいいのかもしれない。
「お兄ちゃん。今会いに行くからね」
《フレイジングマグナード》
たくさんの火球が一つの大きな火球の周りを渦を描くように回っている。
手を引かれた。そのまま後ろに倒れた。目の前に立ち上がる人影。
「アケボシ君……?」
「逃げろ、チアキは逃げろ」
「撃つぞ、早くしろ」
「なんで、待ってくれるの……? 私達のことをいつでも殺せるはずなのに。なんで待ってくれるの?」
単純な疑問だった。星は全員悪いやつだと思っていた。本当は話せば分かり合えるのではないか。そう思ってしまった。小さく「ゔるせぇ゙」と相手が言った気がする。その瞬間大きくなった火球がこちらに飛んできた。
《ガイアード》
血を吐きながらアケボシ君が魔法を使う。もうアケボシ君は助からない。こちらを見ながら逃げろと訴えて来てる気がする。炎は全くと言っていいほど防ぎきれてない。実際は少し弱まっているのだろうと思う。火力が高すぎて実感がわかない。
死ぬって怖いんだ。騎士の覚悟とかどうでもよくなるくらいに。私って最低な人だと思う。許してほしい。
「ありがとう。少しだけ好きになったよ。アケボシ君」
《テレポ》
私はそう言い残して、燃え盛る戦場から離脱した。
____
体の焼け焦げる感覚。痛い。熱い。それでもまだ意識がある。できることなら意識を手放してこの苦しみから解放されたい。
「お゙い゙、生きてるなら最後に答えろ。お゙前は誰なんだ?」
声を振り絞り相手の質問に答える。
「俺は、明星朝日だ。すまんが、アースじゃない」
「そゔか…… 俺の見た感じだとお゙前は完全にアースなんだ。見た目がな。だが、戦い゙方、喋り方が否定してくる。アケボシ、俺は、お゙前達を正直殺したくなかった」
消えゆく意識の中聞こえる声に耳を澄ます。俺がアースという人物と見た目がほぼ同じ。俺は転生というものを勘違いしてたのかもしれない。
《マグナ》
_____
「死んだな」そこにあ゙る親友の遺体を前に独り言を呟く。確実に死んでい゙る。しかし、星の力がどこにも出てこない゙。冥王が死んだときも似たよゔな事があ゙ったらしい゙。星が星を殺すと力は消失するという解釈をしてい゙るが俺はそれに違和感を覚えてい゙る。
〈ドゴッン〉
天井が崩れる。もうそろそろ崩壊するだろう。
「埋めてやるか」
死体を埋めながら思い゙をはせる。アースとは長い゙時間を過ごした。前生まれた時も復活してからも。だからこそ記憶を失って暴れるとは思え゙ない゙。あ゙れはアケボシと名乗った。精神を乗っ取った奴がいる。親友の体を使って俺を殺そゔとしてきた。絶対に許さない゙。
まだあ゙い゙つのスキルがどゔい゙ゔ能力か分からない゙。まだ生きてる可能性もあ゙る。精神が本体なら恐らく他の生物の中に精神を移して生きてるだろゔ。親友の遺体を埋め墓に親友の使ってい゙た剣を突き刺す。
「せめて、最後くらい綺麗な死に方をさせてやりたかったよ。俺はあ゙い゙つを許さない゙。もしまだ生きてるのなら、俺が確実に燃やし尽くしてやる。ゆっくりと眠れ。また復活したら会お゙ゔな」
《テレポート》
ここはずっと変わらない゙な。久しぶりの家で少し落ち着く。戦い゙にお゙い゙て仲間が死ぬことは良くある事だ。だが、アースが死んだのは見たことがなかった。
「フォボス、ダイモス、今蘇らすからな」
炎に魂を込める。ここから一カ月は動けない。生物を生み出すのはかなり力と集中力を使ゔ。昔程の戦力を作るには一年はかかるだろう。逃がした妹も殺しておきたい。先程はラヴィルとの戦いで力を使いすぎたせいで殺す余裕がなかった。それに、アースが戻ってくる可能性を信じたかった。
俺の魂の炎はまだ消えていない。
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設定集なども上げてるので良ければ!