目覚める明星
序章 【流星の降る夜】
俺は平凡な高校3年生。今日は18歳の誕生日だ。しかし、朝から誰もそのことに触れてくれない。
別にカマチョというわけではないが、結構前から誕生日祝ってくれよと頼んでいたのに! だ。
自分の人望の無さに絶望する。そわそわしながら授業を受けながら過ごしていると、もう帰りの会の時間だ。結局誰も誕生日に触れてくれないのかとため息をつきつつカバンを持つと __
「朝日、このあと暇か? 暇だよな? 7時に駅前のカラオケ集合な!お前の誕生日会するでよ」
「おう!! まじで誰も触れてくれないから、忘れられてるかと」
「そんなわけないだろ! おれらはベスト・フレンズだろ!じゃあ来いよな! 」
家に着くとまだ5時。昨日はゲームして徹夜したから物凄く眠い。少しだけ仮眠を取ろう。
そうして眠りにつき、目覚ましをかけ忘れてたなと、思いながら仮眠から目覚める。
6時半。
終わった……
今から全力で自転車漕いでも1時間はかかる。詰んでいる。親に送ってもらおうか悩むが今日は兄の命日だ。何の因果か分からないが俺の誕生日と兄の命日は同じ日だ。毎年親は神社で土人形を作ってお供えしている。そんな大事な時に寝坊で遅刻しかけてるなんて言えない。
なんで仮眠なんかしてしまったのだと過去の自分を責めつつ友達にとりあえず電話した。
「ガチごめん。寝てた。今から行くわ、すまん」
「はぁ? まじか、まぁ気をつけろよ。最近とばしとる車多いでよ!」
「大丈夫だよ! まじ全力で漕いでくわ! 事故るわけ無いやろって! すまんな。30分くらい遅れるわ!!」
遅刻の連絡をし、素早く着替える。そして、思い切り自転車を漕ぐ。持ってくれよ俺の体! えっと、駅前のカラオケどこやったかなと思いつつ道を曲がる。その時だった__
〈キキーッ〉
日が暮れた街に大きなブレーキ音が響き渡る。
気づいた時には遅かった。視界の悪い交差点。お互いスピードを出していた。
もし、あの時寝ていなければ、
もし、もう少しゆっくりいっていたら、
もし、親友の言葉をしっかり聞いていれば、
そういう後悔が波のように押し寄せてくる。
痛みはなかった。痛みを感じる前にすでに意識は外にあった。
空には流星が降っていた。
凄まじい痛みで目を覚ます。
死んだよな俺。そう思いつつもとりあえず辺りを見渡す。薄暗く狭い洞窟。天井には大きな穴が空いていてかなり風が強い。それに洞窟内は蒸し暑くジメジメとしている。トラックに吹き飛ばされて天井の大穴から落ちてきたのかとも思ったのだが、そんなことはないだろう。手足は少し痺れているがまだ動く。しかし、体中が痛い。視界はグラグラと揺れていてよく見えない。耳鳴りもある。とにかく全身が痛い。そんなことを考えていた時だった。
「大丈夫ですか?」
声がした気がする。
「生きてますか?」
やっぱり声がする気がする。
「死んでる? これ死んでるやつかな? 手動いた気がしたんだけど、気の所為……? 生きてます?」
幻聴ではない?
気づいたのは3回目の呼びかけの時だった。しかし、酷い痛みと疲れからか再び意識がなくなる__
どのくらい時間が経ったのだろう。気づいたら柔らかい感触が頭の下にある。ひざまくら? 上を向くと
心配そうにこっちを見ている紺色の髪の少女がいた。
「起きました? よかったです、生きてて。とりあえずは大丈夫そうですね」
「あり、ありがづう」
しばらくぶりに声を出したからか喉が詰まり、上手く発音できているかは怪しい。そしてこの女の子からめちゃくちゃいい匂いがする気がする。柔らかい花のような匂い。
「どういたしまして! そういえば、あなたはどこの部隊の人なんですか? 名前は? ご年齢は? 起きてすぐにごめんなさい。素性が分かれば、私でもどうにかできそうなので」
「えっど、部隊とかはよぐわからないくど名前は明星 朝日でふ。あと、18ざいれふ」
うまく声を発せないせいでめちゃくちゃに噛んでしまった。あと、部隊ってなんのことだ。
「あれ? てか! 同い年なんだ、じゃあ敬語やめるね! めんどくさいから! それにあなたは騎士隊の人じゃないのね? すごく騎士感あったから。同じとこの人だと思った。違うんだ。」
騎士隊?
「あとね、私はチアキ・ブレードっていうの! チアキって呼んでね! アケボシくん!」
ブレード? 彼女は明るい声でよく分からないことを言っている。
死亡、洞窟、騎士、バチクソ可愛い女の子。この状況から導き出されるのは……
「いぜけいてんぜい?」
そして、理解した。自分が異世界転生したのだと。
____
よくよく考えてみたらおかしいことばかりだ。トラックに引かれて、その後起きたら洞窟なんて。それに、明らかに異質な空気感。意識が朦朧としていたのと痛みが強すぎたから思考力が低下していたのだろう。ここまで異変多くて元の世界なことはないだろう。
「おーい?」
でも、そんなトラックにひかれて転生なんて事
「おーい???」
ホントにあるのだろうか?
「ねぇーー! 私のこと無視しないで!!」
そんな可愛い怒号が聞こえてまた自分の世界に入ってしまったと気づいた。
「ごめん。自分の世界に入ってて聞こえてなかった。なんか話あるの?」
「そう。まぁあんな怪我だったもんね。あの、あなたはここで待っててね。私、他の人呼んでくるから」
とチアキと名乗る女の子が手を振りながら立ち去ろうとする。その時だった。
〈ドガンッ〉
洞窟の奥から大きな爆発音ともに凄まじい光が天井から差し込み、大きな揺れが起きた。
「ちあき! 大丈夫か!」
チアキは尻餅をつきながらもグッドサインをしている。こっちの世界にもグッドサインあるんだなと思っていると奥から小走りで男がやってきた。
「チアキ無事け? て、この男誰や! まぁいいやさっすと逃げるけ! この洞窟が崩れるかもしらん!」
と変な訛りの赤味がかった黒髪の男。右目が黄色、左目は青色をしている。オッドアイのようだ。正直かなり顔はいい。しかし訛りのせいで胡散臭い。それになんか厚かましい。正直嫌いなタイプだなと思っていると、
「私は洞窟の奥にいってくる。お兄ちゃんが心配。カインさんはアケボシくんを連れて洞窟の外に出てください。私は転移魔法を使えるから、なんかあったらそれで逃げます。だから大丈夫」
「せやけぬな、騎士長にチアキは守れって言われとるるけな、どっしゃしようくの」
「止めても無駄。私は行ってくる。1人でも私は行かないと。だからお願いカインさん。私のわがままを聞いてほしい」
覚悟を決めた顔でチアキは立っている。そしてカインは渋い顔をしながら悩んでいる。そんな彼女達を見ていたら覚悟を決めようと思った。
「なら、俺がチアキについていきます。だからカインさんは洞窟から出てください。俺でもちあきの壁くらいにはなれると思うので任せてください!」
とちあきの力になることを宣言した。
____
「おみゃあ本気で言っとるけぬ? 第一……
カインが何かを言おうとしていると、会話を遮るように、ちあきが話しかけてきた。
「アケボシ君本気でついてくるの? さっきまでボロボロだったでしょ? 大丈夫なの? 死ぬよ?」
「俺は本気だ。さっき助けてもらったし、お礼を兼ねて、ついて行かせてほしい。足手まといにはならないと思う」
正直めちゃくちゃ怖い。戦いとか専門外だし。早くお家に帰ってゴロゴロしたい。こんな世界から帰りたい。逃げたい。眠い。まだ体全部痛い。それでも、そんなことどうでもいいと思える程彼女に惚れていた。だから彼女の力になりたい。自分に力があるかどうかは分からないが。
「正直戦えるかわからない。でも、頑張るから。頼む。ついて行かせてほしい」
「うぅーん、分かった。でも、なんかあったらすぐ転移魔法で逃がすからね。無理はしないでね」
渋々チアキは了承してくれた。
「あぬ、チアキ、流石にこの男は怪すすぎ。それに服もボレボレだっしゃ。一体お前は何者だっしゃよ」
また腹立つ言い方で横やりを入れられた。喋り方は気に食わないが確かにカインの言う通りである。
「俺がちあきを守ります。絶対に大丈夫だと思います! 俺は怪しくないです! 俺は明星朝日です! 初めまして! よろしくお願いします!」
言いながらに思う。俺ってハチャメチャに怪しい。なんか洞窟にいて。なんかちあきについていこうとしてる。怪しすぎる。カインから見たらただの下心丸出し誰やねんこいつ状態だろう。
「私もう行くから、着いてくるなら勝手にしてね。あとカインさんは洞窟の外まで仲間を連れて逃げてください。お願いします。2人ともご武運を祈ります。」
そして最後に 「じゃあね」 と軽くこちらに手を振りつつちあきは走り出した。
「え、ちょっと待つなすい! チアキ!」
「チアキ! ちょっと待って! いくから!」
残された男2人は互いを見つめながら静かに洞窟の奥を見ることしか出来なかったのだった。
_____
「チアキ、行っちゅったな。そけの男、いやアケボシ! 俺は全く御主を信用してねいがチアキを任せた! 俺は仲間を連ってこの洞窟けら出ることにせる!! ご武運を! では!」
カインは出口に向かおうとしている。
「あ、しゃやこれをもってけ! 命をかけてでもちあきさぬを守るぬだぞ! さらぬば!」
帰り際、カインはおにぎりと思われるものを投げ渡してくれた。案外、喋り方以外はいい人なのだろう。
「俺も行くか」
あの時ちあきは不安気な顔をしていた。一人はやはり怖いのだろう。できる限りの全力で洞窟を走る。早くちあきに追いつかないと、彼女を一人にはできない。しかし回復してすぐだからか体が上手くは動かない。それでも急いで奥に向かう。洞窟は先程の爆発音の後からかなり静かになった。
1キロ程進んだ頃だろうか。ちあきの後ろ姿がやっと見えた。
「おーい!」
聞こえてないのだろうか。チアキは前に進み続ける。
「おーーい!」
まだ気づいていないのだろう。チアキはまだ前に進み続けている。
「おーーーい!! チアキ! 追いついたぞ!」
「ほんとに来たんだね。アケボシくん」
やっと気づいてくれた。振り向いた彼女は今にも泣きそうだ。そしてなんだか、
「はぁ、はぁ、ちょっとまって」
息切れしてる。正直ドキッとした。
「もう怪我は大丈夫そうだね。ついてきたってことは覚悟できてるんだよね」
「正直怖い。でも覚悟はしてるよ。俺さ多分ちあきのこと好きだからさ。一人にしておけない」
「え……? 好き? え? 今日会ったばかりじゃん。私のこと何も分からないくせに。バカなの? バカだからついてきたんだよね。うん」
「チアキのこと正直何も分からない。でも俺の事を助けてくれた。そんな優しさが好き。」
「助けなきゃよかった。死んで。バカ。」
チアキは顔を真っ赤にして色々言ってくる。照れてる彼女もめちゃくちゃかわいい。
「俺はちあきのこと何も知らない。だから教えてほしい。だから、みんなで生きて帰ろう」
いいことを言ってる気がする。俺、今めっちゃかっこよくねそんなことを思っていると、
「私さBランクなのにさ、星がいるところにいくんだよ。もう、死にに行くみたいなものだよね。正直私怖い。でも、アケボシくんのこと信じてみる。なんかよくわからないんだけどね。アケボシくんお兄ちゃんに似てる」
やっぱり笑顔の女の子は可愛い。
「ところでさアケボシくんは何ランクなの?」
ランクなにそれ。星なにそれ。
「俺はたぶんSランクだ! だから星でも何でも倒せる! 俺に任せとけ!」
とりあえず適当に答えたのだった。
_____
「Sランク!? ほんとに? 適当に言ってない? なんか信用できない。それにさっき戦えるか分からないとか言ってなかった?」
チアキはそう言いながらこちらを見つめてくる。しかも思い切り嘘がバレてる。
「すまん、嘘ついた。まったくランクとか分からない。見栄張りたくて、ごめん。本当はこの世界のこと何にも分からない」
「やっぱ嘘じゃん! さっきの好きってやつも嘘でしょ! 私可愛くないもん!」
「いや、あっちは本当。めちゃ可愛いよ、チアキ。」
再びチアキは顔を赤らめる。
「ばか。あともう嘘はついたらだめだからね! メッだよ!」
「ごめん。約束する」
めって言いながら指でバツを作るのめちゃくちゃかわいい。ちょっと約束破りたい。また怒られたい。そう思っていると、
「そういえば、世界がわからないってどういうことなの? 記憶喪失とかなの?」
「別の世界で死んだらなんか、こっちにいたというか? 転生? したというか?まだよくわかってなくて。何の説明もなしにここにいるというか、正直困ってる」
「何も分からない状態でよくあんな大口叩けたね。ビックリだよ。相手の星ってのはめちゃくちゃ強いんだからね。そうだ、魔法の使い方教えるからさ、それで何とかして! 多分できると思う。私3歳で出来たから。」
「魔法とか騎士とか凄いな。めちゃくちゃ異世界って感じがする! さっそく魔法の使い方教えてほしい!」
こちらの世界はなんだかファンタジーな感じがしてワクワクする。異世界転生したっていう実感がどんどん湧いてくる。
「急がないといけないからちょっとだけだよ。私もそんなに上手くはないけどね」
仕草の一つ一つが女の子らしくてとても可愛い。ちあきの笑顔はみんなを幸せにする。そんな彼女を守る為にも魔法を使えるようになりたい。
「チアキ、俺はやっぱり大好きだよ。チアキのことが」
「はいはい。分かりました。分かりました。そんなことよりも今から教えるからね! チアキ先生に任せておきなさい!」
そう言うと、チアキはグッドサインをしながら今日一番の笑顔でこちらを見てきたのだった。
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