第4話:沈黙する芸術家のクレイロイドと、過去の亡霊
ある日のこと。
クレイガール協会に、
ちょっと変わった依頼が舞い込んできたんだ。
超有名な芸術家さんのクレイロイドが、
暴走してるって。
でも、これまでの暴走と全然違うの。
バリバリ壊すんじゃなくて、
ピタッと、一切の動きを停止してるんだって。
それが、逆に不気味で、
暴走寸前の状態らしい。
私と師匠のセレンが現場に派遣されたよ。
なんか、胸騒ぎがする……。
お屋敷に着いたら、なんか空気がヒヤッとした。
すっごく豪華なお屋敷なのに、
シーンとしてて、変な感じ。
まるで、時間が止まってるみたいに。
そこにいたのは、
真っ白な彫刻みたいに、
ピクリとも動かないクレイロイド。
瞳の光も消えてて、人形みたいだった。
芸術家さんは、創作に行き詰まってて、
精神的にボロボロって感じだった。
顔もゲッソリしてて、
目には深いクマ。
もう、見てるだけでズーンと重い気持ちになる。
師匠が私に、
「リリィ、このクレイロイドは、
持ち主の心の闇を深く映しているわ。
言葉ではなく、心で感じ取って」
って、そっと耳元で言ってくれた。
私にできるかな……って不安が、
心の中でフワッと膨らんだ。
私はクレイロイドにゆっくり手を伸ばした。
その冷たい金属の感触が、ゾワッと指先に伝わる。
そして、集中して、グーッと心を開いていく。
すると、まるで彼の心の迷宮に
ダイブするみたいな感覚がフワワッと広がった。
そこは、色彩が薄くて、
なんか曇ってるような場所。
霧がモヤモヤかかってるみたいに、曖昧で。
彼の心の奥には、
彼が過去に生み出した「最高傑作」への固執と、
それを超えられないっていう絶望が
グルグル渦巻いてるのが見えた。
その時、耳元の通信機から
ハルトの声がパッと聞こえたんだ。
「リリィ、そのクレイロイドのデータに、
以前見つけた奇妙なノイズに似たパターンを検出した。
ごくわずかだが、外部からの不自然な干渉の痕跡がある」
って。
え、外部からの干渉?
マジで?
私の心の迷宮探索と、ハルトのデータが
ピタッと重なって、なんかゾッとした。
やっぱり、ただの暴走じゃないんだ……。
心臓がドキドキと鳴り出した。
私は芸術家さんの心の中で、見たんだ。
彼の過去の栄光が、まるで鎖みたいに
彼の自由な創造性をギチギチに縛り付けてる光景を。
目の前に広がるのは、まばゆい光を放つ
過去の作品と、それを取り囲む人々の喝采。
でも、その光が、逆に彼の体を
ガッチリと捕らえてるみたいだった。
それは、過去の成功作を
「素晴らしい」「完璧だ」って絶賛した、
でも今はもう亡き「ある人物」の声が、
彼の心をジトーッと支配してるかのようだった。
その声が、まるで彼の創造の根源を
チクチク蝕んでるみたいで。
「それ以上のものは生まれない」って、
耳元で囁き続けてるんだ。
それが、彼を完璧にフリーズさせてたんだ。
悲しいけど、なんか、嫌な感じ。
誰かの意思が絡んでるような気がして。
この「過去への執着」は、
彼自身のものだけじゃないみたい……。
私は、彼の心に足りない
「新たな挑戦への勇気」と、
「過去からの解放」っていう感情のパッチを、
私の浄化エネルギーで送り込むような
アプローチを試みたんだ。
シュワシュワって光のエネルギーが、
彼の心にじわじわと染み込んでいく。
友だちのクレイロイドを救った時よりも、
もっと深く、デリケートな介入が必要だった。
彼の心の鎖を、一本一本丁寧に解いていく感じ。
光が、ギチギチに絡みついた鎖に触れるたび、
パチッ、パチッて音がするみたいだった。
時間はかかるけど、諦めない。
芸術家さんの心に、光が差し込んでいくのを信じて。
すると、ピクリとも動かなかったクレイロイドが、
ゆっくりとガクガクッと動き出したんだ!
その瞳に、ほんのり光が戻ってきたのがわかる。
そして、芸術家さんの顔に、
新しいアイデアがひらめいたみたいに、
パアッと光が戻った。
彼の顔から、苦しそうな表情がスッと消えて、
穏やかな笑顔が浮かんだんだ。
ホッとして、私も全身から力が抜けたよ。
成功した!
でもね、私の心の奥には、
なんか、引っかかる違和感が残ったんだ。
芸術家さんの心の中に残る、
「まるで誰かに仕掛けられたかのような、
過去への執着」っていう、ごく小さな違和感。
それが、ジリジリと私の中に残る。
これって、もしかして、
最近の暴走事件の「質」が、
なんか変化してるってことなのかな?
今までのは、クレイロイドが
感情でパンクしちゃったって感じだったけど、
今回は、なんか、もっと裏があるみたい。
そんな疑問が、私の心にチクリと残ったんだ。
この先、なんか、もっとヤバいことが
起きそうな予感がする……。
私たちが知らない大きな闇が、
すぐそこまで来てるのかもしれない。
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