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再起動/空白の半世紀
静寂に包まれた研究室の扉が、軋むように開いた。
冷却装置の霧が晴れると、カプセルから出たエリオンがゆっくりと歩き出す。
機械ではない、けれど人間のようでもない――その歩みには、静かな威厳が宿っていた。
「……これは、?」
ゼロ・レイヤー。
すでに忘れられた、かつての文明の影。
瓦礫と配線がむき出しになった廊下、崩れた天井、沈黙するモニター。
それらすべてが、エリオンにとっては“初めて見る現実”だった。
「ここは、眠る前の世界じゃない。……静か」
「当たり前さ。これは、君の時代じゃない」
隣で歩くカイエンが言う。
「君が眠ってた50年間で、世界は変わった。もう“本物”なんて、どこにもない」
「それでも、私は見たい。……私を、外に連れていって」
カイエンは少し目を細めたが、黙って頷いた。
「なら、君を認めてもらうために……最も偽物に満ちた場所へ行こうか――セントラル01へ」
アルカ・ドーム。完全無欠の支配者たちの会議室。
エリオンは、そこで立っていた。