家出をしたいお嬢様
「…抜け、出す?」
「ええ、そうよ」
彼女は握っていた私の手をほどくと、目を閉じる。
「ごめんなさい、順を追って説明するわ」
彼女はみかんと緑茶と一緒に、いろいろな話をしてくれた。
「フレヴァリィ家」の一人娘であるお嬢様は、ある日「ヴィーサ」という平民の男の子と出会ったという。
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ふあーあ、眠いですわ…
今日はいい天気ですの。庭の植物たちもよく育ちますわね。
でも、最近はあまり楽しくありませんわ。お稽古や勉強ばっかりで、楽しいことがありませんの。
「ーーい」
ん?どこからか声が…?
「誰かいますの?」
「おーーーい!!!」
声のした方向に振り向く。そこには、柵の向こうで手を振る、一人の男の子がいた。
誰ですの…?
「こんにちは、どなたか存じ上げませんが」
短くバッサリと切られた髪に、短いシャツとズボン。
見たことがない恰好ですわ!
彼女がそう声をかけると、彼は大声で話しかける。
「おまえ、この家のやつだろ?俺、ヴィーサ。そこらへんの街に住んでる」
「あら…?私に何か御用で?」
「おまえ」とは何のことか存じ上げませんが、なにやら私に用がありそうですの。
彼女の言葉を受け、彼は無愛想に答える。
「いや、別に用はない。なんとなく気になって来ただけ」
そう答えると、彼はくるりと踵を返した。
「じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし」
「なんだよ?」
「私、ロヴィーと申しますの。よろしくお願いしますわ」
「…ふうん」
それだけ言うと、彼は坂の下へと走っていった。
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「…そこから、彼と仲良くなりましたの。しばらくして、彼が街に来ないかと誘ってくれましたわ。
そこでいろいろなことを知りましたの、緑茶や衣服も、もちろん、このこたつのことも」
一息置くと、覚悟のこもった目で私を見つめる。
「私、きらびやかな宝石も、ソファも、広い部屋もいりませんわ。私は彼…ヴィーサのように、自由に街で暮らしたいだけですの。こんな家の一人娘なんてこれから先大変ですわ」
「だから、どうか…私に協力してくださいませんか?」
彼女の瞳に気圧された私。
しかし、無理難題…ではある。
現実的なことを言うが、私の暮らしはどうなるのだろうか。協力したことがバレた場合、完全にお尋ね者だ。知り合いも危険にさらされる。
…今、私に答えを出すことはできない。
「申し訳ありませんが、少し猶予をください」
私がきっぱり断ると、お嬢様…ロヴィ―様はにこりと笑った。
「そうですわね、まずはこの家に慣れてもらいましょうか」
この日は、寮に戻って休憩をとることになった。