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こたつの温もり

「…」

動揺を悟られまいと必死になる私を、まっすぐな浅葱色の瞳がみつめる。

後ろでまとめられた恐ろしいほど滑らかな長髪には似つかわしくない、簡素なヘアゴム。

ネックレス、イヤリング、指輪。そんなものは一切ない。真冬にしては薄い長袖を着用しているお嬢様は、薄い座布団の上で、こたつに上品にくるまっている。

…上品?

「ごきげんよう。あなたが噂の新人メイドさんですわね?」

噂になっていることなんてまったく耳にしていないが、お嬢様は人好きのする笑みを浮かべ、こたつのほうへと手招きする。

こ、これは…どうするべきだ…?

正直なことを言ってしまうと、私はこたつが大好きである。

だがそんなことは言っていられない。私はメイドなのだ。

困り果てた私が執事の方に目を向けると、いつのまにか彼は消え去っていた。

お嬢様は紅茶…ではなく緑茶を一口味わうと、なにかを思いついたようにこちらを振り向いた。

「ああ、もしかしてこたつに入ったことがございませんの?大丈夫ですわ、とりあえず入ってみなさいな」

彼女はそういうと、こたつに入ったまま極限まで私に近づく。

「あいにく、私はここから抜け出すことができませんの。さ、どうぞあちらへ」

座布団を指すお嬢様。

「え、ええ…?」

私が動揺して声を出すと、お嬢様はやれやれと私を見つめる。

「何を気にしておりますの?大丈夫ですわ、吸い込まれたりはしませんのよ」

違うんですお嬢様。私が気にしているのはそういうことじゃないんです。

体裁、体裁というものが…

「本当にいいんですか…?」

私が恐る恐る問いかけると、お嬢様は笑顔で答える。

「いいも悪いもございませんわ、ほら、早く。せっかくの緑茶が冷めてしまいますわよ」

ここまで言われてしまうと、逆にこたつに入らないことで失礼になってしまう…かもしれない。

私は忍び足で座布団へと向かうと、ゆっくりこたつに入る。お嬢様は満足気に頷くと、わたしにみかんを差し出した。

ふわふわのこたつの布と、確かな温度。

…実家、か?

懐かしい感触にほだされた私を、目の前に佇む美麗な容姿が現実へ引き戻す。

「それで、メイドさん、お名前を伺っても」

「は、はい」

私は姿勢を正し、自然に受け取ってしまったみかんをつぶさないようにそっと手で包む。

こんな質素な部屋にもかかわらず、お嬢様は明らかに他とは違うオーラをまとっている。

緑茶を口へ運ぶ上品な所作、ありえないほど綺麗に剥かれたみかんの皮…。

違和感しかないが。

「私はフリアと申します。この度はお嬢様にお仕えさせていただくことになりました。よろしくお願いいたしま…」

「フリア…ちゃんね」

私の言葉を遮ると、お嬢様は私の手を取る。

すべすべとした手の感触に戸惑う私には気づいていないようだが、お嬢様はどこか覚悟を決めたように私の手を強く握る。

息を吸うと、凛としたまなざしで私を見つめ、口を開いた。

「仕えてくれてありがとう。でも、突然だけどフリアちゃん」

「私と一緒に、この家から抜け出してくれないかしら?」

ーーー!?




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