エピローグ:フレヴァリィ家の愛娘
「今日は、お初にお目にかかります。本日からお嬢様にお仕えすることになったフリアと申します」
表情、声色、言葉遣いに所作。すべてに気を使いながらこのドアの前に立っている。
私はこのたびここ、フレヴァリィ家に仕えることになった新人メイド。
「フレヴァリィ家」といえば、この国だけではなく遠く離れた他国にさえも知れ渡る、貿易、統率、金銭、信頼、地位、面積…国に重要な要素をすべてそろえた、いわば「最強国家」なのだ。
つまり、もちろんそんな最強家につかえるメイドの給料や待遇なんて、他のメイドの比ではない。ましてや、この先莫大な権力と財産を手にするかもしれない、「お嬢様」の専属メイドなんて…
そんな邪心を背負っていることを気づかれないよう、ドアの向こうのお嬢様に語り掛ける。
「何卒よろしくお願いいたします」
「…」
ガチャ、と鍵が最も鍵らしい音を立てて解除される。さすがお嬢様。部屋に鍵があるものなのか…。
「入ってよろしいかと」
ここまで案内してもらった執事に声を掛けられ。私は姿勢を正す。
フレヴァリィ家の娘の部屋なんて、想像もできないくらい豪華なのだろうか。生まれが裕福ではなかった私は、少しばかり乙女心を思い出しながらドアノブに手をかける。
「失礼いたします」
このドアを開ければ、私のメイドとしての平穏な人生は確約される。
これまでお世話になった人の顔を浮かべながら、凛としたまなざしでドアノブをひねる。
重い音を立てて開くドア。
隙間から部屋の中身が見えた瞬間、私は目…いや、自分のいる場所そのものを疑った。
豪華なシャンデリアや磨き上げられた宝石などは何もない。
ドアを完全に開けてもなお、私には認めるなんてことはできなかった。
全国民のあこがれ、最強国家フレヴァリィ家の愛娘の部屋の真ん中には、
質素なこたつと、薄っぺらい座布団が敷いてあった。