第91話: 社会貢献の意義
リハルトを中心に進められる養蜂プロジェクトは、目に見える形で地域に変革をもたらし始めていた。
ミツルたちの活動が、孤児や奴隷、元冒険者たちに新しい雇用と教育の場を提供することにより、徐々に周辺の街にも影響を及ぼしていた。
ミツルはリハルトの市場を歩きながら、最近の変化を肌で感じていた。
「物乞いや乞食が減ったからか人通りが多くなったな…」市場の日常が、以前にも増して賑わいを見せていることに気付く。
「こんなに賑やかだと、嬉しくなるね。街も奇麗になってる気がするし、笑顔の人が増えた気がする。」エルザは、陽気に笑顔を浮かべる子供たちを見て微笑む。
最近では浮浪者やストリートチルドレンと思われる子供たちも見かけなくなり、この変化が周囲に良い影響を与えていることがわかった。
また、夜になると街の治安も大いに改善された。
近隣の街からも軽微な犯罪が減少し、職を得た人々の誠実な生活が街に安心感をもたらしていた。
「教育ってやっぱり大事なんだな。やっぱり子供は国の宝だから子供や子育て世代の親達が笑ってられる社会がいいに決まってる!」ミツルは目の前を歩く子供たちを見て感慨深く思った。
昔日本にいる時養蜂農家の家に生まれ、近隣はみんな何かしらの農業に従事していた。
食うに困らなかったが、けっして裕福ではなく、天候や曜日に関係無く毎日の作業をこなすだけで明るい未来なんて想像出来なかったのがミツルの中を駆け巡る。
リハルトにおける教育プログラムは、識字率や計算といった基礎学力の向上を目指し、すでに多くの子どもたちがその恩恵に与っていた。
過去には、アシュフォード領では教育の概念が広まっておらず、商人の家庭でさえも基本的な計算しかできなかった。
しかし、ミツルたちが設けた教育機会は、これまで学ぶ場所のなかった人々に新たな知識の窓を開いていた。
かつて孤児院で育ったマリーは、今や商人の見習いとして取引の基礎を学び、取引市場で働くようになった。
彼女の勤労ぶりは、高く評価され、彼女自身の将来にも希望をもたらしていた。
「私は道で物乞いするしかなかったのに、今は働けるし頑張れば頑張った分の成果があるって言うのは凄く楽しい!だからどんどん色々な事を学んでお父さんとお母さん、そして弟と妹をおなか一杯食べさせられる様に私頑張るんだ!」マリーは感慨深く、笑顔を見せている。
ミツルたちのプロジェクトは、衣食住を保障し、教育を与えることで多くの人々を社会復帰させ、蜂蜜の売買による利益と新たな雇用創出をもたらしていた。
ミツルが日本にいた時の現状、歴史を勉強をして思った疑問と無力感、そしてこの世界に転生してきて、優しく受け入れてくれたフローリア村のみんなやそれから関わる人達の笑顔に少しでも貢献出来ていると思うと少しだけ報われた気がした。
しかし、それは同時に貧困ビジネスを利益の源としてきた一部貴族や有力者にとっては、既得権益を奪われることを意味していた。
「このままいけば、自分たちにとって不都合になるかもしれない。」
裏で貴族たちが眉をひそめ始め妨害行動等を画策していたが、バルドウィン卿が顔を立てる中、彼らは表立って反抗することができなかった。
彼らは既得権益等で得た利益を放棄し、まともに生きれる様な考えはもはや持ち合わせていなかった。
私利私欲の為邪魔者排除の為に暗躍の準備を着々と始めていた。
「バルドウィン卿の顔があって助かっているけど、前回もそうだが、貴族達の特権階級思想はかなり強いはず。歴史的にもこういう時は必ず反乱が起こっているはず。いつまでこの状態が続くかは分からないから準備や備えはしっかりとしておかないとな!」
ミツルはそう思いながらも、地域の住民との信頼関係を強固にし、プロジェクトをより広範に進める決意を固めている。
地域住民との関係はさらに強まり、彼らもまたミツルたちの姿を通じて共生社会の実現に向けた一歩を感じていた。
信頼が芽生える中、ミツルたちはさらなる挑戦に備え、進み続けることを誓った。
この活動が社会全体にどのような変革をもたらすのか、まだ未知の部分も多かった。
しかし、彼らの進む道に未来が明るく輝いていることを、誰もが感じていたのだった。




