第63話: 黒い影の払拭
エドワード逮捕という衝撃的な出来事を経て、アシュフォード領は新たな転機を迎えていた。
領主バルドウィン卿のリーダーシップの下、領内の浄化と改革の動きが本格化していく中で、人々の間には期待と不安が入り混じっていた。
ある霧のかかった朝、アシュフォードの大広間に集まったバルドウィン卿、冒険者ギルドのバルドック、商人ギルドのオルガ、そしてミツルたちミード製作隊のメンバーたちにエドワードの悪行に加わらなかった貴族や豪族等の有力者達。
彼らは、この領地を変えるための具体的な行動を話し合うため、顔を揃えていた。
「まずは、領内に根付いている悪しき慣習を一掃しなくてはなりません。これに関しては自分だけでは力不足なのでみんなの力添えを是非ともお願いしたい。」バルドウィン卿はその深い声で会話を切り出し、集まっている人に頭を下げた。
「エドワードの逮捕は単なる始まりでしたが、これを機に、領民との信頼関係を再構築し、未来へ向けた歩みを始めるべきです。その思いの元に是非とも協力して欲しい!」
商人ギルドのギルドマスターオルガはそれに応じる形で、座り直して言葉を続けた。
「商人ギルドとしても、経済的な安定を取り戻すために尽力します。不正が蔓延していたこの地で、正当な取引ができるよう取り決めを厳格化します。商人ネットワークを活用して、情報収集と抑制に努めましょう。」
「冒険者ギルドも全力で協力します。」バルドックが拳を軽く打ち合わせながら応じた。
「俺たちは監視だけでなく、必要ならば力を用いて秩序を取り戻します。もちろん、力だけじゃなく知恵も使ってな。」
「僕たちはバルドウィン卿のおかげで色々な人との出会いもあったし、蜂蜜の可能性をかなり広げてもらいました。自分の力や蜂蜜の持つ可能性がアシュフォード領再編に貢献出来るなら是非とも協力したいと思っています!」
ミツルたちもそれぞれの専門分野から領地改革に貢献することの重要性を話し合った。
エルザは研究した新たな蜜源植物の成果を発表し、アリーシャは育てた作物による地域活性化プランを説明する。
「俺たちも、蜂蜜産業とこの土地を盛り上げるために力を合わせるよ。そうだよな、みんな。今はフローリア村とベリル村と言う狭い世界での蜂蜜製造だけど、エルザやアリーシャとの経験の蓄積があれば、リハルトやその他の村や街でも地域限定の蜂蜜やミード、それに代わる新たな名産を作る事も出来ると思う!」ミツルは仲間たちを見渡しながら声をかけた。
全員が頷き、決意の固さを示す。彼らにとって、養蜂とミード作りは単なる仕事ではなく、地域の希望そのものだった。
しかし、彼らが新たな未来に向けて進む一方で、かつての特権を剥奪された悪徳貴族たちは深い恨みを抱いていた。
領内で逮捕や制裁が続く中、彼らはバルドウィン卿に対する復讐心を募らせていた。
「どうして我々がこんな目に遭わねばならないのだ。」ある貴族は仲間と共に影で不満をこぼす。「バルドウィン卿には必ず報復する機会を見つける。」
復讐心から、密かに新たな反逆の動きが生まれつつあることを、バルドウィン卿たちはまだ知らなかった。
彼らはこの闇をどのように切り拓くのか、そして新たな敵となる可能性を秘めた者たちにどう対処していくのか、課題は山積みだった。
だが今、眼前の改革を粛々と進めるために、彼らは一致団結し、希望を胸に領地の浄化に立ち向かっていた。
これが領地全体を巻き込む新たな始まりであることを、彼らは肌で感じ始める。未来に向けた決意の炎を胸に、アシュフォード領は、一歩ずつだが確実に、再生への道を歩み始めたのだった。




