第59話: 捕縛作戦
夜が明けると同時に、アシュフォード領全体に緊張感が漂い始めた。領地の中心部に位置するエドワードの館には、昨日までの賑わいとは異なる静かな重圧が押し寄せていた。
バルドウィン卿の命を受けた私兵たちは、音も立てずに館を包囲し、その合図を待っていた。
その周囲では、エドワードの協力者たちを拘束するため、綿密な作戦が進行していた。
ミツルとその仲間たちは互いに連携し、ここ数週間で集めた証拠を基に、エドワードの不正行為を公に暴く準備を整えていた。
エルザはスティンガービー蜂蜜の抽出場にて、ハニィウィングとの交配実験の結果を慎重に確認。「この結果が役に立てばいいけど…」と呟く彼女の心は、蜜の研究がエドワードの陰謀を打ち砕く助けになることを願っていた。
一方、アリーシャは村人たちと協力し、街道沿いの畑の最終確認を行っていた。「準備は万全。収穫も進んでいるし、心配いらないよ、ミツル。」
ミツルは彼女に微笑み返す。「ありがとう、アリーシャ。君のおかげで、しっかりとした計画が立てられるよ。」
その頃、ジョナサンは館からの情報を常に監視し、エドワードの動きを見逃さないように最前線で指揮を執っていた。彼らはそれぞれ、持ち場での緊張を感じ取りながらも、確実に動いていた。
やがて、合図が出された。ジョナサンがバルドウィン卿の私兵たちに向かって手を挙げると、兵たちは静かに陣を組み直し、一斉に動き始めた。
館の各入口に配置された兵士たちは、その時を待たずにエドワードたちの前に姿を現した。
ここで現場は一気に緊張が高まった。エドワードの私兵たちが騒然として動く中、突発的な戦闘が始まろうとしていた。
「敵襲だ！」と叫ぶ声が響くと同時に、エドワードの護衛たちが武器を手に取った。その一瞬、琥珀色の蜂蜜の甘い香りが漂う中、彼らは急な対応に追われた。
私兵たちもすぐに応戦する。さらに、ドラゴンテイルの面々たちもその混乱の中に加わり、エドワードの部下と繰り広げられる激しい闘争が始まった。
エリオットは的確な指示を飛ばし、ライアンが前線での突破口を開く。「皆、ここで阻まれるな！進め！」エリオットの声に応じて、仲間たちは力を合わせて敵を押し返そうとした。
激しい剣戟音と怒声が入り混じる中、ミツルたちも作戦の要を担うべく行動を起こしていた。
彼は蜂蜜を活用し、相手の注意を一瞬の隙間で引きつけるための策略を仕掛ける。
今回使ったのはムーンブロッサムの蜂蜜とパラライズリーフの蜂蜜だ。眠気を誘い、体を麻痺させる効果を持つ蜂蜜を水に溶かしてそれを熱する。そうする事で薬効を含んだ蒸気が上がる。
これを吸い込めば効果は下がるが、奇襲の援護にはなるだろう。「これは俺たちの領地だ！奪わせるものか！」ミツルの声になぶられるように、その場の士気が一層高まった。
総力を挙げた戦いが進行する中で、エドワードの動きを察したジョナサンは鋭く彼を睨みつけた。
やがて、館の中心部でエドワード自身が逃走を図ろうとする。
しかし、奇襲を受けたことによって動揺していた彼に対し、ジョナサンは迅速に追い詰めた。
「エドワード・ブラックウェル、貴様に対する逮捕令がここにある。全ての不正行為に関して、即座に身柄を拘束する。」軍服を纏った将校が、その場で力強く宣告を下した。
エドワードは驚愕の表情を見せたが、素早くその場を立ち去ろうと試みる。
しかし、ジョナサンがその動きを狙い澄まして封じていた。館の出口は完全に塞がれていて、もはや逃げ場はない。
同時に、レベッカやトーマス、ウィリアムもそれぞれの場で拘束され、全員が館に連れ戻されることとなった。
彼らが関与していた不正取引や贈賄の記録は、館内の証拠として綿密に押収された。
戦いが沈静化する中、ミツルは安堵の表情を見せた。「これでやっと、不正を正すことができる。」
その言葉に対して、エルザは冷静に応えた。「でも、これからも仕事は続くわ。彼らが残していった影響を完全に取り除かないとね。」
すべての動きが一旦の終着を迎えたころ、バルドウィン卿が館に到着した。
彼は誇らしげに領地の未来を担う若者たちを見渡し、共に立ち上がった仲間たちの努力に深い感謝を述べた。
「今日の成果は、皆の勇気と団結の賜物だ。エドワードの不正が暴かれたことで、新たな時代の扉が開かれる。我々が目指すべき未来のために、これからも共に歩んでいこう。」
彼の言葉に、全員が一つの目標を見据え、力強く誓い合った。エドワード逮捕の報は迅速に領地全体に広がり、その影響が広範にわたって現れるのはこれからの物語となる。
彼らの願いはただ一つ、この土地をより良い場所にしていくこと。その胸の内に希望を抱きつつ、新たな一歩を踏み出す時が訪れるのを待っていた。
