第5話:魔物の森、危険と希望
ミツルとゴードンは、整備されていない道をかき分けて森の奥深くへと進んでいた。
彼らの目標は明確だった。ハニィウィングという蜂のような魔物がどの地域に生息しているのかを特定し、どのようにその蜜を採取するかの方法を探ることだ。
深い静寂が森を包み込み、踏みしめるたびに音が反響する中、一歩一歩がまさに冒険だった。
「本当に道なき道だね」と肩をすくめてミツルはつぶやく。先の見えない旅路に不安を感じつつも、足を止める理由はなかった。
「ハニィウィングの生息地が見つからないと、始まらないからな。注意深く行こう」とゴードンも目の前の密林をじっと見つめている。
途中、足元に絡みつく蔦を避けながら、奇妙な植物や見たこともない魔物に何度も遭遇した。
どちらも不思議な魅力と危険を孕んでおり、注意を怠ることはできなかった。
ミツルはあるポイントで立ち止まった。「見て、あの花、何か惹かれるものがあるよ」と彼が小声でゴードンに伝える。
青白く輝く花には、ハニィウィングたちが群がっているのが見えた。「これ、うまく使えないかな?」
ゴードンはうなずきながら近づく。「試す価値はあるな。この植物、何かに使えそうだ」
「じゃ、これを村に持ち帰ってみようか。うまくいけば、ハニィウィングを誘導するのに使えそうだし、蜜も集められるかもしれない」と、ミツルは花の茎を慎重に掴んで引き抜いた。
葉の裏には細かい毛があり、触れるとチクチクとする。「これが魔物を惹きつける成分かもしれない」
その時、遠くから低く重い咆哮が森全体に響き渡った。「何だ?!」
「アースベアだ…」ゴードンが低く告げる。
彼の指差す先には、巨大な熊のような魔物、アースベアが静かに佇んでいた。最初は落ち着いて見えたその魔物の目は、次第に鋭く彼らを注視し始めた。
「普段は大人しいって言われてたんじゃ…?」ミツルが声を潜めながら後ずさる。
「近づきすぎたみたいだな。ゆっくり後退しよう。きっと刺激しなければ大丈夫だ」ゴードンは緊張した声で察しの早い指示を飛ばす。
しかし、その刹那、アースベアが突然牙をむき出しにし、雄叫びとともにこちらへ急接近してきた。「来るぞ!」ゴードンが叫び、二人は必死になって逃げ始めた。
ミツルの呼吸が荒くなり、心臓が鼓動の度に胸を締め付ける。速く、もっと速く。彼は森の木々の間をくぐり抜けるように駆け抜けた。
「こっちだ!」ゴードンが見つけた逃げ道を指し示し、二人は懸命にそこへ向かって突き進んだ。追い迫るアースベアの咆哮が耳をつんざく。「あいつ、怒ってるな…」
やがて、少しずつアースベアの足音が遠ざかり始め、ミツルたちはようやく森の静寂の中に逃れた。「何とか…逃げられたか?」ミツルは息を整えながら周囲を確認した。ゴードンも同様に後ろを振り返り、一息ついた。
「どうやら、うまく振り切ったようだな…ほっとしたよ」と彼は微笑んで肩をすくめた。「ただ、ここしばらくは、この辺りを彷徨くのは止めておいた方がよさそうだな」
「うん、そうだね。でも、あの花は持って帰れて良かったよ。村にもどったら、すぐに試してみよう」
村に戻ると、ミツルは持ち帰った花をどう植え付けるか真剣に考え始めた。
アリーシャはすぐにやって来て、手助けを始めた。「ミツル、その花、何かに使えそう?」
「まだ分からないけど、この光がハニィウィングを引き寄せてくれるはず。うまくいけば、蜜を集める手がかりになるかも」とミツルは期待を込めて話す。
アリーシャは興味津々で彼の言葉を聞き、「それはすごい!村の皆もミツルのこと応援してるよ。村の大神父も協力してくれるって言ってたし」と励ますように言った。
「それに、村がもっと豊かになれば、ずっと夢見てたことだって叶うかも」とアリーシャが微笑む。「みんなが待ち望んでるんだよ、ミツル」
ミツルは彼女の言葉に力をもらいながら、村の未来へと一歩一歩進む準備を整えた。
まだまだ試練は続く。しかし、彼の中には確かな希望と決意があり、この地での新しい挑戦に向けて心を躍らせるのであった。