第44話: 最低限の街道整備、エルフの訪問
春風が心地よくフローリア村を吹き抜ける中、蜂蜜街道の整備は順調に進んでいた。
このプロジェクトは、アシュフォード領からリハルト、フローリア村とベリル村を結ぶ重要な事業であり、人々の期待と共に推進されていた。
出来上がりつつある街道は村人たちにとって新たな希望と未来への道筋を示している。
そんな中、ミツルたちは最近起こった一連の出来事に思いを巡らせていた。
騎士団による監視強化や、ドラゴンテイルによる調査が進む一方で、街道の整備によって森の魔物たちが動揺していることも事実であった。
この日は、街道沿いで作業を進めていたミツルのもとに、一人の旅人の影が近づいてきた。
彼女はエルフの吟遊詩人シルヴィアで、その存在感は一瞬にして辺りを異空間のように変えるほどのものがあった。
エルフはこの地域であまり見かけることがないため、その出現はミツルたちや村の人々を驚かせた。
「こんにちは。貴方がこの街道の工事を監督している方でしょうか?」シルヴィアの声は静かでありながら、どこか魔力を帯びているかのようだった。
ミツルは戸惑いながらも彼女に応じた。「ええ、僕がミツルです。このプロジェクトを担当しています。貴方は…エルフですか?」
「私はシルヴィア。古くからこの森の奥深くで魔物や自然と共に暮らしているエルフです。最近、森の魔物たちが活発に動き始めたので、何事かと思い調べていたのですが、あなた方の工事が原因の一つだと知りました。」
ミツルはその言葉に少し困惑しつつも、謝罪を表明した。「それは申し訳ありません。私たちの計画が地域にどのように影響を与えているか、もっと考慮すべきでした。」
「いえ、謝罪を求めてきたわけではありません。実は互いにとって利益があるのではと思ってきました。私たちエルフは森に住む者として、魔物や自然との共存について多くの知識を持っています。それを使い、皆さんのお役に立てればと思って。」
彼女の提案に、ミツルの表情は明るくなった。「それは嬉しいお話です。ぜひ、私たちと知識を共有していただければと思います。街道と養蜂事業が共に発展しながら、自然との調和を図るために。」
シルヴィアは軽く頷き、ミツルの誘いを承諾した。彼女の知識は、長年エルフ族が培ってきた自然と魔物の共存の結果であり、そのノウハウはミツルたちにとって大いに役立つことは明白だった。
会話の途中、エルザとアリーシャも興味を持って近づき、彼女の話に聞き入っていた。
エルフの独特の視点は、これまで考えもしなかった洞察をもたらし、彼らの計画に新たな革新を加える可能性を秘めていた。
「私たちが持っている知識を、できる限り皆さんに伝えます。街道がどれほど繁栄の役に立っても、失われてしまう自然は元に戻すのが難しい。それを防ぐためにも、皆さんと協力できることを光栄に思います。」シルヴィアの瞳は真摯であり、ミツルたちもまたその熱意を感じ取った。
その後、ミツルたちはシルヴィアと共に森を訪れ、魔物たちの生態をもっと深く理解するための調査を行うことにした。
レアな存在であるエルフのシルヴィアの協力は、新しい展望と可能性を提供し、プロジェクトの成功に向けた大きな一歩となったのだった。
そして養蜂場に赴き巣箱やここで採れた蜂蜜、その蜂蜜から作ったミードをごちそうする。
シルヴィアは蜂蜜を知ってはいたが、森の恵みとして食べていただけでそれを人工的に生成する方法があるとは思っていなかった。
「こんな方法で森の恵みを採取し、それからお酒を造るなんて聞いた事がありません。少なからずエルフの歴史の中でミードと言う森の恵みから作られたお酒は無かったと思います。凄く美味しいですし、こちらのミードからは何やら魔力も感じます。是非ともこの製法やミードを譲ってくれませんか?」とシルヴィアが懇願してきた。
「協力をしてくれるなら一緒に製造しましょう!シルヴィアさんの持つエルフの知識は魔物との共存や街道整備に必ず役立ちます!」とミツルは返答する。
そう言った後ミツルは養蜂に関して簡単な説明を始める。「今はハニィウィングとスティンガービーにロイヤルゼリーと言う女王蜂しか食べない特別なものを与えたら変化したそれぞれの亜種と協力して蜂蜜を作っています。」
「ハニィウィングとスティンガービーに亜種?そんなの聞いた事がありません!それを見せてもらう事は出来ますか?」っと興奮気味にシルヴィアがミツルに詰め寄ってきた。
この一連の流れが養蜂とミード製作に多大なる影響を与えるとは、ミツルをはじめ誰一人としてこの状況で理解している人はいなかった。
エルフシルヴィアとの出会いは偶然なのか、それとも運命なのか分からないがミツルの計画にとって素晴らしい出会いとなる事となる。




