第42話: 魔物との共存、議論の始まり
日が暮れ、フローリア村に静けさが戻る頃、村の広場では緊張感のある会議が始まろうとしていた。
街道建設の音が静かな森に響き渡り、そこに住む魔物たちは不安を感じ始め、その影響で巨大な「アースベア」が姿を現した。
この異変を受け、ミツルたちは緊急の対応策を検討するため、冒険者ギルド長やバルドウィン卿、村の指導者たちを招いて会合を開くことにした。
会議室に集まった一同は、蜂蜜街道建設による影響をじっくりと話し合うため、議題を開始することに。
バルドウィン卿が席を立ち、開会の挨拶をすると、部屋に漂っていた緊張感が少し和らいだ。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。街道建設がもたらす地域の発展は計り知れません。しかし、このまま進めれば、間違いなく魔物たちとの衝突が待っています。共存の道を探るべきです。」
この言葉に、冒険者ギルドのギルドマスター、バルドックが即座に同意を示した。
「確かに、アースベアのような巨大な魔物と対立するのは避けたい。彼らの生態を理解し、共存の方法を真剣に考える必要があります。」
ドラゴンテイルのリーダーであるエリオットが慎重に口を開く。
「ただ、魔物との共存は想像以上に難しいかもしれない。街道建設を進める中でも、何らかの安全対策を講じるべきだろう。冒険者として行動していて魔物に村人や冒険者が襲われる被害を見聞きした事は何度もある。冒険者はまだしも、商人や村人達一般人が被害に合うと討伐等をしないといけなくなる。それはそもそも共存とは真逆の対応だからな。冒険者ギルドのギルドマスターならその辺の事は誰よりも詳しいはずだろ?!」
「確かに…エリオットの言う事は事実だ。意思の疎通が出来ない魔物と共存するのは難しいかもしれないが、だからと言って共存を諦め敵対すると言うのは人間のエゴだと思う。現に今回の蜂蜜だってその魔物からの恵みであって、共存するからこその物だろ?」とバルドックは日頃言わない心の内を吐露し始めた。
「わしだって全ての魔物と共存が出来るとは思っていない!だが、人間のエゴで魔物の住処を奪ったり、不快な思いをさせて襲ってきたから討伐する!と言うのは蜂蜜街道の思惑とはずれてしまうんじゃないか?と思っている。」と続けた。
「バルドックさんの考えには俺も賛成です!」とミツルが発言した。
バルドウィン卿の言葉は重く、一同の表情も引き締まる。対話を重ねる中、彼は今後の計画についても触れることにした。
そんな少し暗く、悲壮感漂う場の空気を変えようとバルドウィン卿が発言する。
「そして、皆さんの貢献に応じた報酬についてもお話ししておきます。まず、ドワーフ族のボリスとティルダに対して、彼らの努力にふさわしい報酬を用意しています。今回の街道整備である程度の報酬はもちろん、今後の整備や定期点検等完成後もお願いしたい事が多々あると思いますのでその辺もお話ししたいと思います。」
バルドウィン卿の視線がボリスとティルダに向けられる。「二人の技術はこのプロジェクトに欠かせません。個別に詳細な報酬をお渡しする準備が整っていますので、ご安心ください。正確な額は分かりませんが、冒険者ギルドや商人ギルド、アシュフォード領への街道開通による利益の何%をお二人やドワーフ族の村にお渡しするつもりでいます。」
ボリスは落ち着いた様子でうなずき、ティルダもまた、軽く微笑んで応えた。続けて、バルドウィン卿はドラゴンテイルにも報酬の話を持ちかける。
「ドラゴンテイルの皆さんにも、もちろんきちんとした報酬をお渡しします。それ以外の方々には、街道開通による利益と流通の恩恵が自然に行き渡る計画です。」
バルドウィン卿は少し表情を和らげ、「協力してもらったのに報酬を渡せないのは心苦しいですが、現状では街道整備を優先するため、かかる費用は最小限にしていただく、私からのお願いもあります。」と続けた。
一同はその要望を快く受け入れた。何よりも、このプロジェクトがもたらす未来の可能性に胸を躍らせていたのだ。バルドウィン卿は彼らの理解と協力に感謝の意を示し、話を締めくくった。
「皆さんのご協力に心から感謝しています。この計画が成功すれば、地域全体が利益を享受できるはずです。どうか、共に力を合わせていきましょう。」
会議が終わり、外に出たミツルは、しばし星空を見上げた。
街道建設の意義はもちろん大きいが、自然との共存を可能にする仕組みを築くことの重要性を改めて感じた。
彼の心には、地域が調和のとれた発展を遂げる未来への希望が広がっていた。会議を終えた一同は、それぞれの役割を胸に秘め、新たな課題に向けて一歩を踏み出した。




