第3話: 蜂蜜の記憶、異世界での挑戦
フローリア村での生活が少しずつ自然に感じられるようになる中で、ミツルは何か新しいことに挑戦したいという気持ちを抱え始めていた。
その思いに導かれるかのように、ふとした瞬間—村の子供たちがアリーシャの手作りのお菓子を嬉しそうに頬張る姿を見た時、彼の頭にかつての記憶が閃いた。
日本にいた頃、養蜂への情熱と使命感が彼の心を包んだ瞬間があったのだ。
蜂蜜は人々に笑顔を与え、生活を豊かにする素晴らしいものであった。ミツルはその記憶に触発され、この異世界でも蜂蜜を作ることができるのではないかと考えるようになった。
「蜂蜜の可能性を追求したい!」その思いはやがて、フローリア村をより良い方向へと導けるという確信に変わっていった。
もしこの村で養蜂ができれば、蜂蜜だけでなく受粉の手助けにもなり、農作物の収穫量を増やすことができるかもしれない。
それが、彼を暖かく迎えてくれた村への恩返しの形になるのでは、と強く感じるようになった。
その決意の下、ミツルはこの世界に存在する“蜂の魔物”についての調査を開始した。
この世界にはミツバチのような生物は存在せず、代わりに様々な「蜂の魔物」がいた。
ミツルはゴードンや村人たちから情報を集めることで、それらの魔物についての知識を少しずつ蓄えていった。
知識は少しずつ揃い始めたが、中でも彼の関心を引いたのは「ハニィウィング」と呼ばれる小さな蜂の魔物だった。
ハニィウィングは、この世界で蜂蜜と直接的に関わる希少な魔物であり、比較的穏やかな性質を持つという。
それは大きな群れで生活し、特定の花から蜜を集めて活動しているとの情報も得られた。
ハニィウィングは森や花畑を飛び回り、蜜を含んだ花粉を集めることで種を維持しているらしい。
しかし、その特性を完全には理解できていない村人たちにとって、それが農作物の受粉に役立つとはまだ認識されていない部分が多かった。
ミツルはこの点に目を付けた。もしもハニィウィングの特性をうまく利用して受粉の手助けができれば、村の農作物の収穫量を大幅に増やすことも可能なのではないかと考えたのだ。
過去の養蜂に関する知識を活かし、養蜂に適した環境を整えることに注力し始めた。
まず、ミツルはハニィウィングが好む花について詳しく調べ始めた。
村の周辺の森や草原には、この世界特有の美しい花々が多く自生していた。
ミツルはその中で、「ラディアンフラワー」や「ブルームベリー」という特に蜜が豊富な花を見つけ出した。
これらの花はハニィウィングの主な蜜源であることが分かり、ハニィウィングの活動範囲を広げることができれば、彼らの集める蜜の質も向上し、それに伴って受粉の効果も高まるはずだと期待を抱いた。
さらに、ミツルは村人たちとも協力して、養蜂用の設備を整えることにした。
日本での知識を活かし、ハニィウィングが安心できるような巣箱を作り、彼らの生活環境を確保するための準備を整えた。
村人たちは最初はその試みに対して懐疑的だったが、ミツルの熱意に触れ、次第に協力的になっていった。
ハニィウィングとの共存を試みる中で、ミツルは彼らが自然と作物の受粉を行い、結果として作物の収穫量が増加する可能性を強く感じるようになった。
養蜂を積極的に行うことで、この村が食料難に喘ぐこともなく、より豊かな生活を手に入れることができるという希望が見えてきた。
もちろん、この挑戦には危険もつきものだった。
村の近隣にはスタンガービーやクインスティングといった攻撃的な蜂の魔物も生息しており、彼らが蜂蜜探しの行く手を阻むこともあった。
しかし、ミツルは決してあきらめなかった。彼は危険を伴っても新しい知識を得ることを恐れず、ゴードンやアリーシャら仲間たちと共に、魔物から採取される蜜やこの世界特有の植物を組み合わせることで、新しい蜂蜜の可能性を模索し続けた。
この新たな挑戦は、ミツルにとって知識と情熱を再びその胸に呼び覚ます原動力となった。
彼は養蜂を通じて村を豊かにし、この異世界で培った経験と知識を生かしながら、再び人々に笑顔と希望をもたらすことを目指した。不安と期待を胸に秘めながら、彼は新たな地平を目指して、森の奥深く、未だ知られざる領域への挑戦を続けていくことを決意した。