第36話: バルドウィン卿の決断
リハルトでの成功が報告されると、アシュフォード領の領主バルドウィン卿の元にその知らせが届いた。
彼はその報せを聞くやいなや、興奮を抑えきれなかった。
というのも、彼が治めるアシュフォード領は、主要都市こそそれなりに栄えているものの、それ以外の地域、特に小さな町や村に至っては支援体制や管理、さらには治安維持にまで手が回っていない現状だったからである。
バルドウィン卿は、常々この状況を憂いていた。領民たちがより良い生活を送り、領内の隅々にまで発展の息吹を届けるにはどうしたらよいか、彼は日々その答えを探していた。
そして、そんな折に届けられたニュースは、彼にとってまさに行幸と言えるものであった。
「蜜蜂を用いた新たな産業には、地方全体にとって多くの可能性を秘めている」と、バルドウィン卿は側近アンドリューに力強く話した。
彼はフローリア村というどちらかと言えば辺鄙な村から新たな名産品が生まれたことを大きなチャンスと捉え、これを活かすことで領地全体の活性化を図ろうと考えたのだ。
アンドリューもまた、彼の長年の夢を知る一人として、既にリハルトでの行商が成功し、蜂蜜事業が注目を集めていることを頷きつつ受け止めた。
「確かに、蜂蜜産業は新しい市場を形成する可能性があります。それに、街道が整備されれば、村や町の発展も進むでしょう」と、彼の視点に賛同を示した。
しかし、バルドウィン卿の期待は単なる経済活性化に留まらなかった。彼はアシュフォード領全体、リハルト、ベリル村、そしてフローリア村を結ぶ「蜂蜜街道」の構想に深く興味を寄せていた。
この街道こそが、彼の目指す未来を叶える鍵になると信じていたのだ。
「この新しい事業を支えるインフラが欠かせない。そして、この街道建設は、地域経済の活性化に大きく寄与するだろう。これはただの道ではない。生命線となる」と語るバルドウィン卿の眼差しは熱を帯びていた。
アンドリューもまた、この計画の重要性を理解し、「蜂蜜の成功を起爆剤とし、地方全体の成長を図るべきです。これまで試みてきた政策に、実現の光を灯す時が来たのではないでしょうか」と、長年の悲願を遂に叶える時が来たことを確信していた。
この希望的な見通しに共鳴したバルドウィン卿は、即座にアンドリューに命じて、フローリア村での会談の準備を始めるよう指示した。彼らの取り組みを皮切りに、直接現場を見聞きし、その情熱と可能性を自らの目で確かめることが、何よりも重要だと判断したのである。
「フローリア村へ訪れる準備を整え、彼らと具体的な話をしよう」と決断するバルドウィン卿の行動力は、彼の領主としての信頼感をますます高めていく。彼の求めるビジョンは、単なる利益追求に留まらず、領民の生活の質と地域全体の繁栄を第一に考えたものである。これが、彼が長年にわたって信頼と尊敬を勝ち得てきた理由であり、その先に見据える「蜂蜜街道」の完成に向けて、確かな一歩を踏み出そうともしていた。
こうして物語の新たな幕が静かに上がり、フローリア村での新たな試みが展開される場面へと移行する準備が整えられていく中で、バルドウィン卿の胸中には、自分が選んだ道が正しいと信じる強い思いが渦巻いていた。それは、彼の未来を決定づける、転換の時を映し出すのであった。




