第35話: 領主バルドウィン卿の耳に届く
リハルトでの行商を終えたミツルたちは、商業ギルドでの評価が上々だったことに満足しつつ、市場で必要なものを一通り揃え、再びベリル村を目指す道を歩み始めた。
彼らの手にした新たな道具や素材は、フローリア村の養蜂やミードの生産をさらに発展させるだろうと期待に胸を膨らませていた。
「リハルトでの成功がこの道をさらに輝かせているように感じるね」とエルザが言うと、ミツルとアリーシャも微笑み、「そうだね、この調子で村のみんなにも成果を伝えたいね」と意気込んだ。
一方、彼らの知らないところで、彼らの成果は新たな重要な局面を迎えていた。リハルトでの商業ギルドの成功は、アシュフォード領の領主バルドウィン卿の耳にも届いていたのである。
バルドウィン卿は領地の発展に貢献する新しい動きに常に関心を持っている人物であった。
そのため、この報告を聞くやいなや、彼は即座に対応を決め、商業ギルドのギルドマスターであるオルガに使者を送り込み、詳細な情報を収集するよう指示した。
使者として派遣されたのは、バルドウィン卿が長年信頼を置くアンドリューという人物だった。
彼はバルドウィン家に長年仕える重臣であり、領地内外の情報を集めて報告する任を帯びていた。
彼は領主のためにどんな小さな情報でも見逃さず、領主の決断に大きく寄与する立場にあった。
アンドリューはバルドゥウィン卿の指示を受け、「今回の報告は特に面白いです。養蜂という新たな産業が起こり、その成果がすでに村々に対して大きな影響を与えているとのこと。この動きを直に確認するべきだと判断しました」と述べる。
バルドウィン卿は、「私は現場主義だ。実際の活動を見ることで、多くのことが得られる。リハルトのギルドに使者を送ったのもそのためだ。君に託す、オルガとバルドックから詳細を聞いてきてほしい」とさらに伝えた。
彼の計画には、アシュフォード領全体の発展を意図したものがあった。
彼は自身の領地を豊かにし、人々の生活を豊かにすることで、領地の名声を高めようとしていた。
そのためには、新たな技術やビジネスの導入が不可欠であり、特に今回の蜂蜜とミードの成功は、彼の思惑に大きな影響を与える可能性を秘めていた。
その後、アンドリューは商業ギルドを訪問し、オルガとバルドックとともに詳細な話し合いを始めた。
オルガの事務室にて、三人はミツルたちがリハルトで行った行商について熱心に語り合った。
「彼らの取り組みは非常に革新的です。養蜂という新しい技術が村全体の活性化に寄与しており、バルドウィン卿の方針にとっても絶好の材料となるでしょう」とオルガが説明し、バルドックも深く頷いた。
「彼らの情熱と創造性には驚かされるよ。それに引き換え、我々も彼らから学ぶことが多い。領主にもぜひ一度彼らの活動を目にしていただきたい」とバルドックは話を重ねる。
アンドリューは彼らの言葉を聞くと、「この情報をすぐに領主に伝えよう。この動きは、我々の地域にとって新たな時代の幕開けかもしれないな」と返事し、準備に取り掛かることにした。
こうして、バルドウィン卿は直にフローリア村を訪れることに決定し、今後、地方の発展にさらに寄与できるような影響力を持つ者たちと直接対談するための準備を進め始めた。
今回の訪問がどのような未来を切り開くのか、その期待は膨らむばかりであった。
ちょうどその頃、ミツルたちが市場での買い物を終え、フローリア村への帰路を満喫している時、その背後では、領地全体を揺るがす大きな動きが音もなく進行していた。
彼らの生活に影響を与える可能性があるこの出会いがどのような形で展開されるか、ミツルたちはまだ知らなかったが、そう遠くない未来に待つ訪問者がいることを予感していた。
数字としての成果だけでなく、人々の生活そのものを豊かにする、この展開が食卓にもたらす未来の光景は、さらに明るいものであると信じていた。




