第20話: 蜂蜜酒「ミード」完成
冒険と訓練を並行して行う中で、ミツルたちは着実な成長を遂げていた。
ドラゴンテイルの助言を受け、彼らは鍛錬と共に蜂蜜酒「ミード」の完成を目指していた。
ミツルは日本での記憶を頼りに、ハニィウィング産の普通の蜂蜜をベースにしたミードの製造に取り組んでいた。
製作は、まず蜂蜜と水を適切な割合で混ぜるところから始まった。
ミツルはこれを大きな鍋で煮沸し、雑菌を取り除くと同時に、糖度を調整する。
その間、口元と鼻を覆いながら、ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中の香りを感じ取っていた。
「この香りが、後の味わいにどう影響するか…」と自問自答しながら、慎重に作業を進めた。
エルザはこの作業を手伝いながら、彼女が研究した様々なハーブや薬草の花の特徴をミツルに教えていた。
「この花の蜜を使えば、少しフルーティーな香りが出るかもしれないわ」と彼女は提案する。
エルザの知識は、ミツルのミードに新しい風味をもたらす可能性を秘めていた。
やがて糖度を調整し終わると、ミツルは酵母を加えて発酵を開始させた。
彼は温度と湿度を細かく管理し、発酵が順調に進むように環境を整えた。
数週間が経過し、ミードは徐々にその姿を変えていった。発酵の香りが漂う中で、ミツルたちはこれが成功することを期待し、次のステップへと進む準備を進めた。
熟成は1か月と短かったが、ミツルはその期間を最大限に活用した。
何度も試飲を繰り返し、味の変化に敏感になるよう努めた。「熟成期間が短い分、蜂蜜の甘さを活かすことができるかもしれない」と彼は語る。
アリーシャは村の女性たちと協力し、エルザの選んだ花の種を育てることにも力を注いでいた。
ミツルのミードが仕上がるまでに、十分な蜜を提供できるよう、彼女たちは熱心に花を育てていた。
「この花が咲いた時、どんな蜂蜜が取れるのか楽しみだわ」とアリーシャは期待を募らせた。
ミツルは一度に多くのミードを仕込むことはできず、10樽分しか準備できなかった。
それでも、2樽分をリハルトに持っていくことに決めた。ベリル村にも1樽試作品として持って行こう!それにリハルトに同行してくれるドラゴンテイルにも1樽お礼に渡さないとな…と色々考えていた。
「でも冒険者ギルドや商人ギルドに試飲してもらえば、きっと関心を引けるはずだ」とミツルは意気込んでいた。
試飲会が開かれる日、ミツルとアリーシャ、エルザ、そしてドラゴンテイルのメンバーが一堂に会した。
樽を開けた瞬間、部屋中に芳醇な香りが立ち込めた。その香りは、蜂蜜の甘さと酵母の発酵が生じさせた深い味わいの片鱗を見せるものだった。
「この香り、本当にいいね!」とライアンが感動を口にした。「見た目も黄金色で美しい。一口飲めば、きっとその味にも驚かされるはずさ。」
彼らは慎重にグラスにミードを注ぎ、それぞれが一口含んでみた。
ミツルの顔に不安が過ぎったが、次の瞬間、エリオットが笑顔で声を上げた。「これは…すごいよ、ミツル!香りも味も申し分ない!このミードはリハルトで必ず評判になるね。」
ドラゴンテイルのメンバーからの賛同を受け、ミツルの胸には安堵と新たな自信が同時に湧き上がった。「やった…!これでリハルトに行く準備が整ったぞ。」
ミツルたちはこのミードを持ってリハルトへの旅を決意する。
それは単に成果を披露するだけではなく、彼ら自身の努力と成長が結実した瞬間であった。
アリーシャもエルザも、作業の全てが実を結んだことで、各々の目標達成への手ごたえを感じていた。
「このミードを、もっと多くの人たちに知ってもらえる日が来るなんて」とエルザはしみじみと感慨深く語った。「やはり、みんなで協力して形になったものは素晴らしいわ。」
エリオットたちもそのミードを試飲し、ミツルたちに全面的に協力することを約束した。
「これを今度はリハルトで紹介しよう。冒険者たちも商人たちも、この素晴らしいミードの虜になるに違いない!」
お礼の1樽、ベリル村に卸す1樽、冒険者ギルドと商人ギルドに卸すように2樽の計4樽のミードを馬車に積み込み、ミツルたちはリハルトへの旅路に思いを巡らせた。
蜂蜜から生まれたこの特別な飲み物が、異なる文化や市場でどのように受け入れられるのか。期待と不安を胸に抱えながら、彼らの新たな冒険が幕を開けようとしていた。
ミツルたちのこれまでの努力の結晶であるミードは、フローリア村の名を広く知らしめる第一歩に過ぎない。
彼らはこの成功をもとに、更なる挑戦に立ち向かう意欲を燃やし続けた。
「この道の先には何が待っているだろう」と、彼らはまた一歩を踏み出した。未来は自分たちの手に委ねられており、その道を自ら開拓していくための意識を新たにした。




