136話:オーガとの試練
「オーガはワーウルフよりもはるかに強く凶暴な魔物だ。注意が必要だぞ」ガレスの言葉にミツルとティグは気を引き締めた。
ゴブリン、ワーウルフと順調に心を通わせることができたとはいえ次の相手は格が違う。
「大丈夫でしょうか…?」ティグは不安を隠せない様子でガレスに尋ねる。ミツルも内心ガレスの言葉が重くのしかかっていた。
「大丈夫だ。お前たちはゴブリンとの訓練を通して、魔物と心を通わせるための基礎を学んだ。今度はその経験を活かしてワーウルフと向き合えば良い!そして何よりも今迄数々の壁を乗り越えてきた自分の事を信じろ!」ガレスは二人の不安を見透かすように力強く断言する。その言葉にミツルもティグも少しだけ勇気づけられた気がした。
二人は緊張しながらもオーガの檻へと近づいていく。檻の中では想像を絶する巨体のオーガが轟轟と音を立てて暴れ回っていた。その姿はまさに鬼と呼ぶにふさわしい。
檻に近づくにつれオーガの放つ威圧感が二人の体に重く圧し掛かってくる。ゴブリンやワーウルフの比ではない圧倒的な力の前に思わず息を呑んだ。
「分かっていたけど、実際この後戦うと言うか直接対峙すると思うとちょっと怖いですよね…」ティグが弱音を吐く。
「確かにな…そもそも俺らの攻撃はこのオーガに通用するのか?」とミツルもティグの感想を聞き弱音を吐いてしまう。
「まあとりあえずケガしない様に気を付けるのと、今迄やって来た事をやる!って事ですかね!」とティグがやる気を見せる。
「やって来た事をやると言っても…オーガと心を通わすにはどうすればいいんだ…」ミツルの呟きは轟轟というオーガの咆哮にかき消された。ティグもまたその迫力に圧倒され言葉を発することができない。
「とにかく話しかけてみましょうよ!ゴブリンやワーウルフの時と同じようにまずは僕たちのことを分かってもらわないと!」沈黙を破ったのはティグだった。
恐怖に押しつぶされそうになりながらもゴブリンやワーウルフとの経験を思い出し自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
ミツルもティグの言葉に頷き、意を決してオーガに向かって声をかけた。「おい!オーガ!俺たちは敵じゃない!」
しかしミツルの声はまるで蟻が巨象に話しかけるかのごとくオーガには届いていないようだった。オーガは二人の存在に全く気付かずただひたすらに檻の中を暴れ回っている。
「ダメだ…聞いてないみたいだ…」ミツルは落胆した様子で呟く。ティグもまたその状況に頭を抱えた。
「何か気を引くものはないか…?」ミツルは周囲を見渡しながら打開策を探す。しかし有効な手段は見つからない。
「そうだ!干し肉だ!」ティグはワーウルフの時と同じように訓練で余った干し肉を取り出した。空腹を満たすという行為は魔物にとって共通の欲求である可能性が高い。
二人は檻の近くに干し肉を置き少し離れた場所からオーガの様子をうかがった。しかしオーガは干し肉にも目もくれず相変わらず檻の中を暴れ続けている。
「ダメか…」ミツルの言葉に諦めの色がにじむ。何度試みてもオーガとの意思疎通は上手くいかない。高ランクの魔物であるオーガに対してミツルとティグはこれまでの経験が通用しないことに大きな壁を感じていた。
「やはりワーウルフみたいに餌じゃつられないか…そもそもオーガって何食べるんだ?」ミルツがふと疑問を口にする。
「オーガの主食…草食じゃないのは確実ですが、肉食…魔物とか、もしかして人間?」とティグが思いつきで話すが最後の発言でかなり気落ちしたみたいだ。
「オーガの主食が人間なら俺たち危険だな(笑)せめて食べられない様に気を付けよう!」とミツルが落ち込んでいるティグを励ます。
オーガとのファーストコンタクトは何も成果を得られなず無駄に時間が過ぎるだけだった。




