134話:小さな魔物との対話
それから数日間、ミツルとティグはゴブリンの檻の前で座り込み、ゴブリンの様子を観察し続けた。
ゴブリンは当初二人を警戒し牙を剥き出しにして威嚇していたが、何度も交戦しているがミツル達が自分達に敵対意識が無いのは地名の一撃を与えていない事で案に理解してくれているらしい。
交戦を何度か重ねて行く内に二人の様子に慣れてきたのか警戒心を解き始めた。
「ミツルさん、ゴブリンが落ち着いてきましたね」ティグはミツルに話しかける。
「ああ、ようやく俺たちのことを警戒しなくなったみたいだな」ミツルもゴブリンの様子を見ながら答える。
「ガレスさんの言う通り魔物と心を通わせるには、まず彼らのことを理解することが大切なんだな…」ティグはしみじみと呟く。
「ああ。ゴブリンは臆病で警戒心が強い反面、仲間意識が強く、知能も高いと言われている。だからテイムするならむやみに攻撃したり、威嚇したりするのではなく、まずは安心させて信頼関係を築くことが重要なんだ」ミツルはゴブリンの生態について説明する。
「なるほど…。じゃあどうすればゴブリンの信頼を得られるんでしょうか?」ティグはミツルに尋ねる。
「うーん…そうだなぁ…。ゴブリンは根っからの戦闘種族だから武器とかあげてみたらどうだ?その上でゴブリンに格の違いを分からせて、かつ武器の使い方をレクチャーするような模擬戦をやれば心を通わせられるんじゃないかな?」ミツルはアイデアを出す。
「魔物に武器ですか?」ティグは首をかしげる。
「ああ。例えば安くてもいいから剣とかこん棒とかさ!素手で攻撃するよりもゴブリンの願望を叶えられれるんじゃないか?そしてその武器を使っても勝てない!ってなれば自ずと同格じゃない!って認識するから敵対意識を持たなくなるんじゃないかな?」ミツルは説明する。
「確かに犬もそう言うの大切!って言いますもんね!わかりました。試してみます!」ティグはガレスに相談して使っていないこん棒を貰い受けゴブリンの檻の中に入れた。
「よし…これでどうだ…?」ゴブリンはこん棒を見つけると自分達に警戒はしているが拾い上げて握ったり、振ったり色々している。何度も交戦しているからか最初に比べるとゴブリンから敵意を向けられる度合いも大分収まってきている。
「お!気に入ってくれたみたいだな!」ミツルは笑顔で言う。
「本当ですね!ミツルさんありがとうございます!」ティグは嬉しそうにミツルに礼を言う。
それからというもの、ミツルとティグは自分達も簡易的に握り易く持ち手を整え、すぐに折れなさそうな頑丈そうな枝を持ちゴブリンのいる檻に入り交戦する。
だが二人ともゴブリンを攻撃しよう!や倒してやろう!と言う気持ちは無くゴブリンの攻撃を受けるのみ!と言う状況が続いた。
二人はゴブリンと触れ合ううちに、ゴブリンにも個性があることに気づく。
臆病なゴブリン、好奇心旺盛なゴブリン、いたずら好きなゴブリン…。彼らは人間と同じようにそれぞれ違った性格や感情を持っていたのだ。
「ゴブリンって意外と可愛いな(笑)」ティグはその中でも気の合うゴブリンの頭を撫でながら言う。
「ああ。最初は怖かったけど今ではすっかり愛着が湧いてきたよ」ミツルもゴブリンに微笑みかける。
全てのゴブリンと心を通わす事は出来なかったが自分と気の合うゴブリンとは何とか心を通わす事が出来たと思う。
それを何も言わず見守ってくれていたガレスが「やっとテイマーとして一番大切な事と基本を理解出来たみたいだな。テイマーとは魔物を力により屈服させるのではなく双方の信頼関係を構築し絆を結ぶ事で本来の仲間になるんだ。今なら心を通わせたゴブリンならテイム出来ると思うぞ!」と褒めてくれた。
厳しい修行だったが、その第一段階と思われるゴブリンのテイムは及第点を貰えたようだ。
ガレスの言葉を胸に刻んだミツルは「ありがとうございます!今迄力で屈服させて隷属させる!と思っていた自分が恥ずかしいです…でもガレスさんの教えのおかげで本当の意味でテイマーとしての進むべき道が見えた気がします!」と変化していく自分の心境を感謝と共にガレスに伝える。
「ガレスさんには本当に感謝です!自分は獣人で人間よりも魔物の気持ちを分かっている!と過信してましたし、お世話になっているみんなの為に何かやらなきゃ!と焦っていたことを痛感しました!なんだか大切な事を教えてもらえたし、まだ分からないけど、何か分かった気がします!」と共に奮闘したティグも思う所があるらしくまだ整理がついていないのかうまく言葉はまとまっていないが思いを伝えようとしている。
修行の第一段階を合格出来たのだが「なんだが感動しているみたいだが、俺の修行は始まったばかりだぞ!これからもビシビシ鍛えてやるから覚悟しておけよ!ガハハ!」と豪快に笑うガレスの言葉に心から答える二人の声があたりに響いた。




