133話:モンスターテイマーとしての基本
ガレスはまずアースクローラーの幼虫数匹をミツルとティグに託した。
「アースクローラーは成長とともに凶暴になりがちだ。だがそれは本来の姿ではない。凶暴な魔物だって幼いうちから愛情を注げば必ずそれに応えてくれるはずだ。アースクローラーだって例外ではない」
ガレスの教えに従い、ミツルとティグは毎日欠かさず幼虫の世話をした。エサをやり、健康状態をチェックし、時には一緒に戯れる。幼虫たちもすぐに二人に懐き、無邪気に甘えるようになっていった。
「お前たちと幼虫の絆はしっかりできてきているようだな。テイマーとしての基本は出来ているようだ。では次は魔物との戦いだ!」
ガレスは二人を訓練場に連れていった。そこには数多くの檻に入れられた魔物たちがうなり声を上げている。ゴブリン、オーガ、ワーウルフ…様々な魔物が檻の中で苛立ちを隠せずにいた。
「モンスターテイマーにとって大切なのは魔物に対する敬意と畏怖の念だ。決して支配しようなどと思ってはいけない。強さを示し、信頼を得てこそ心を通わせ合える」ガレスはそう言って檻の鍵を開けた。
「さあ行け!お前たちの力で魔物を屈服させるのだ!」ガレスの言葉に後押しされ、ミツルとティグは恐る恐るゴブリンに近づいていく。
小柄な体格のゴブリンは二人を見るなり牙を剥き出しにして威嚇する。
「落ち着け!俺たちは敵じゃない!」ティグが両手を広げて訴えかけるがゴブリンはますます怒りを露わにした。
「くっ…こうなったら力ずくで…!」観念したティグはゴブリンに飛びかかる。だがゴブリンは素早い動きでティグの攻撃をかわし逆に反撃の牙を剥く。
「うわっ!」ティグは咄嗟に身をひるがえすが、ゴブリンの爪に腕を引っ掻かれ、傷を負ってしまう。
「ティグ!」ミツルが駆け寄りティグの傷を確認する。「大丈夫か?」
「大丈夫です!浅い傷です!だが…なんて強いんだ。こんな小さな体なのに」
ゴブリンは二人を油断なく見据えている。その目は獰猛そのもので、隙を見せた時にはすぐさま襲いかかってきそうだ。
「言葉が通じないなら力で示すしかない…!」ティグは再びゴブリンに立ち向かう。だがゴブリンは巧みな動きでティグの攻撃を避け続け、時折反撃の爪を見舞ってくる。
「くそっ…捕まえられない!」ミツルも魔法でゴブリンを足止めしようとするが、ゴブリンは素早く動き回り、ミツルの魔法をことごとく回避する。
「なんて素早さだ…。こんな小さなゴブリン一匹相手にこんなに苦戦するなんて…」ミツルは自分の未熟さを痛感する。
「ハァ…ハァ…くそっ…まだ…負けない…!」ティグは血だらけになりながらも決して諦めることはなかった。
「よし、十分だ」やがてガレスが二人の前に立ちはだかり告げる。
「魔物の力を思い知ったか?今まで通り戦闘として退治するなら簡単だが、テイムする!と言う条件が付くと彼らに勝つことは容易ではない。だがな今のお前たちは自らの力を過信していた。そして魔物を見下していた。その驕りが敗北を招いたのだ」
「は…はい…申し訳ありません」二人は恥じ入りながら頭を下げた。
「魔物と向き合うとは、謙虚に、真摯に、魔物の力を認め、敬うことから始まる。そうして初めて魔物との絆が生まれるのだ」ガレスは真剣な眼差しで二人を見据えた。
「もう一度言う。テイマーは魔物を屈服させるのではない。魔物と心を通わせ、絆を結ぶのだ」
「…はい!」二人はガレスの言葉に感銘を受け、心に深く刻み付けるのだった。




